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「アタリくん! こっちの花のメンテもお願いしていーい?」
「あ、はい」
「そうだ! 十時にアタリくんご指名の中村様が見えるから、花束お願いね!」
「わかりました」

 花屋の仕事も、一年経てば慣れるもので。朝が早い事や冬場の寒さや水の冷たさがキツイ時もあるが、好きな花に囲まれた生活は悪くない。だが、いつだってアタリの心の中に有るのは、彼のことだけだった。

「もうすぐ十時か。中村さん…来店時に制作、ね。相談しながらがいいのかな」

 指名だなんて珍しいな、と一人連絡メモを見て呟いていると、表を掃き掃除に行っていた同僚が慌てて戻ってきた。

「表に! スッゴイ超絶美形イケメンが居るんだけど!!」

 キャアキャアと騒ぐ物凄いテンションに押され、男になど興味は無いのに無理矢理表に引きずり出される。しかしそこには、アタリが会いたくてたまらなかった男の姿があった。

「よう」
「っ、リョ…さん…」

 ガードレールに座っていた彼が、ゆっくりと立ち上がり近づいて来る。無駄に空気の読める同僚は、神々し過ぎて目が潰れる! と訳の分からない事を叫びひとり店の中に戻って行った。

「元気そうで、何よりだ」

 久しぶりに聞いたその懐かしい声に、アタリの心は震えた。
 会いたくて会いたくて会いたくて。だけど会えなくて。死んだ方がマシかと思える程に恋い焦がれる相手が、いま目の前に立っている。
 彼から離れたのは一年前。あの頃よりずっと精悍な顔つきになった彼は、恐ろしい程に美しい。
 
「リョウ…さん。何故、ここに?」
「予約した、中村だが?」

 あんた中村じゃなくて神浦でしょうが!! という突っ込みは、直ぐに出来なかった。

「本名を名乗って逃げられたら困るからな。…これに、答える為に来たんだ」

 そう言って目の前に立った彼は、一輪の花を差し出した。それはとても懐かしい、忘れたくても、忘れられない花。

「アネモネ…」

 差し出された紫のアネモネ。
 彼の側を離れると決めた時、彼のあの部屋に残して来た願掛けの花だった。

「俺がこの花に込められた気持ちを読み違えてなければ、お前は俺を待っていたはずだ」
「……でも、その花には他にも沢山、花言葉があります…よね」
「確かにな」

 アネモネ。花言葉は『恋の苦しみ』『儚い恋』、そして…『薄れゆく希望』

「だけどお前が俺に残したのは、紫のアネモネ。花言葉は」

 
 ―――あなたを信じて待つ


 そう、何時だって彼を信じていた。彼の心も、自分と共に有ることを信じていた。

「だから、お前を迎えに来た」
「あ…まさかっ、リョウさん嵐山に!」
「あぁ、…土下座した。彼奴本当に性格悪ぃな。思い出しただけでムカつくぜ」

 その顔は本当に嫌そうで。

「何でそこまでしたんですか! リョウさんなら、彼奴を使わなくても俺の居場所なんて探れたでしょう!?」
「けど、お前がそれを望んだんだろう?」

 そう、彼の自分への本気を知りたかった。だからこそユウキにも、ヒロにも、チームの誰にも居場所を告げなかった中でただ一人、嵐山にだけ居場所を教えた。
 案の定嵐山は、「彼奴が土下座したら教えてやるよ」と言った。でも、それでいいと思った。自分の想いは、余りに重すぎるから…半端な気持ちで来てしまえば、きっと彼を押し潰してしまうから。

「お前は変に敏感で、鈍感だ」
「え…?」
「忘れたのか? 俺は、嵐山への嫉妬でお前をあんなにしたんだ。お前の気持ちの重さなんか、屁でもねぇんだよ」
「リョウさん…」

 リョウは先ほどから手に持っていた紙袋をアタリの頭上へ掲げる。

「それと。これがお前への気持ちだ」
「わっ!」

 そう言って翳した紙袋を逆さにすると、アタリの頭には大量の花が降り注いだ。

「これ…」

 頭や肩に降り注ぎ、足元へ落ちた真っ赤な花たち。

「チューリップと、アネモネ…」
「お前なら、意味が分かるだろ」
「愛の…告白、アネモネはっ…」
「アタリ…迎えに来るのが遅くなって、悪かった」


 アタリの身体は、一瞬にして求め続けた温もりに包まれた。






 抱きしめられた腕の強さに、懐かしい香りに、目頭が熱くなるのを感じた。

「身辺整理に時間がかかった」
「身辺整理…ですか?」

 何と無く嫌な予感がしてアタリが顔を上げると、リョウはニヤリと悪い顔をして笑った。

「予想は多分当たってる。中途半端な状態は嫌だったんでな、徹底的に片付けて来た」
「まさか、どっか潰したんですか!?」
「ふんっ、心配すんな嵐山じゃねぇ」
「いや、嵐山なんか心配してませんけど…じゃあ、もしかして…」
「お前の大嫌いなSuccubusだ」
「でも! あそこのバックにはヤバいのがっ」
「あぁ、だから時間がかかった。久しぶりに実家を頼ることになったぜ」
「実家…ですか? あ、神浦組!?」

 リョウは、まぁな、と答えると不服そうな顔をした。

「手を貸す代わりに、兄貴が今度お前を見せろと言ってきた。クソっ」

 リョウの実家は『神浦組』、所謂そちら側の職だ。リョウの兄であるリュウが、次期組長でまず間違いない。

「まぁ、それは置いといて。時間がかかったのはそれだけじゃねぇ。Lynxを解散した、あの後直ぐにな。今はもうチームは無い状態だ」
「それは…嵐山に少し聞きました…」
「それから、ユウキと会社を設立した」
「へ!?」
「チームの奴らの殆んどがウチに入ってるし、別へ勤めてる奴も、未だにあのフロアにたまってる。解散した意味が殆んど無いな」

 そう言って笑ったリョウに釣られて、アタリも笑った。

「みんながお前を待ってる。ユウキも、ヒロもな。戻って来いアタリ。お前の居場所は決まってるだろう」

 ジッと見つめられる。アタリは足元に落ちた花を拾い、リョウに差し出した。

「赤いアネモネは…君を愛す。俺も、同じ気持ちです。永遠にあなただけを愛す。俺を、連れて行って下さい」

 リョウは差し出された花を受け取り、ふっと笑った。

「お前とヒロのせいで、俺は随分とロマンチストになっちまったよな」

 そうですね、と同じように笑う。
 また昔の様に、あの部屋に花を飾ろう。今度はリョウと二人で。
 毎日愛を語り合おう。
 不器用な二人が、口に出さずに囁きあえる方法で。

「戻ったら、白い薔薇でも飾ろうかな」
「まぁ、お前しか居ないだろぉな。俺の相手が務まるのは」

 調べもしないで意味が伝わるリョウに、アタリは声を上げて笑った。


END



↓↓おまけ↓↓

おまけ@

「そう言えばお前…、何で嵐山を遠ざけねぇんだ」
「え? あ、……聞いても怒らないですか?」
「…あぁ」
「見た目とか、表立った性格とかは全然違うんですけど……根本的な所が何処かリョウさんに似ていて…何か邪険に出来なくて」
「………」
「………」
「………」
「…お、怒らないって言ったじゃないですか!」
「別に、何も言ってないだろ」
「オーラっ! ドス黒いオーラ出てますからっ!! まぁ、それだけじゃないんですけど…」
「?」
「最初の頃に言われたんです。俺が、仲違いしてしまった弟に似ているって。話してると懐かしくなるって……だから、話すだけならいいかなって思ってしまって……」
「………」
「………」
「あいつ、弟なんか居ねぇぞ」
「……は?」
「言ってなかったが、彼奴は俺の従兄弟だ。弟なんか居ねぇ」
「………」
「居るのは妹で、因みに凄ぇ仲が良い」
「………」
「………」
「………………コロス」


 ◇


「ぶえぇっくし!」
「ちょ、お兄ちゃん! 手で押さえてよっ、もぉ!」
「うぅ〜ぞくっとしたぁ…」
「やだ、風邪じゃないのぉ?」
「んー…、何か違う気もすんだけどなぁ…」

その感じた悪寒が命の危険に変わるまで、そう遠くはない。




おまけA

神浦組にて。

「君が噂のアタリくんかい? 私がリョウの兄のリュウです」
「若の御付きの黒木です」
「は、初めまして、アタリです。いつもリョウさんにはお世話になって、ます」
「ふふ、そんなに緊張しなくても良いいんだよ? しかし、これはまた…随分可愛い子を捕まえたもんだねぇ、リョウ?」
「ちっ、あんまジロジロ見んな」
「良いじゃないか、減るもんでも無いし」
「変態に見られると減るんだよっ! もう良いだろ!? おら、アタリ行くぞっ」
「へっ!? リョウさんっ! あ、あの、すみません、失礼します」




「行ってしまわれましたね」
「まぁーーったく、そんなに警戒しなくても良いのに。俺にはもう、決めた相手が居るんだからねぇ?」
「…………」
「なぁんで、黙るのかな?」
「いや、若…その…」
「二人きりの時は名前で呼べと言ったでしょう? 若さにあてられたかなぁ? ムラムラしてきちゃったなぁ」
「っ! ぁ、ちょっ、あっ!!」
「今日はうんと可愛がってあげようねぇ…」
「わぁぁああぁあ!!!」

兄は美形男前×ガチムチだった…


END


あとがき



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