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首筋にキスをする


※本編でチラっと出てきた、諒→紫穂への風呂イタズラ噺。


俺のタガが外れたのは、大学二年の夏だった。

「紫穂、一緒に風呂に入ろうか」







 俺には歳の離れた弟が居る。

 双子の紫穂と和穂、そして由衣の三人だ。
 三人ともとても歳が離れていたからか、俺にしては随分可愛がっていたと思う。だがそんな弟を、双子の片割れを、純粋に弟として見れなくなったのはいつからだったか…。

 暴走しそうになる欲望を抑えようと寄ってくる女を適当に喰い散らかしてみたものの、いつも頭を過るのは幼い弟、紫穂の事だった。
 抱いても、抱いても、抱いても…どれだけ喘がせても腹は満たされない。やがて飢えた欲望の触手は紫穂と同じ性を持つ男へと伸びた。だが、柔らかさや丸みの無い男のカラダを抱きながらも、思う事はただ一つ。

 あの子の肌は、まだきっと柔らかい。
 快感に震える声もまた、腕の中の男とは違い甘く高いのだろう。
 男の声ではない、だが女の声でもない。
 あの子の声は、きっと、もっと…

 そう考えるだけで、気持ちはこの上なく昂ぶった。
 息は上がり、腰が勝手に揺れる。
 容赦ない突き上げに抱かれる男が悲鳴みたいな声を上げたが、その声が俺の奥底に届くことは無かった。




 大学二年の夏。
 カラダだけの関係だと割り切って付き合っていた筈の男が、付き合ってくれと、自分を愛してくれと泣いて俺に縋った。途端に広がる嫌悪感。
 これから欲を吐き出すというところで言われたそれに、気分は一気に萎えた。
 中途半端な状態で男の中から抜け出すと、泣いて縋る男を冷たく一瞥する。それだけで男は何かを悟ったのだろう、ただ泣きながら口を噤み俯いた。

 それを見ても、俺の心は動かない。
 可哀想だとも、哀れだとも思わない。
 そこに有るのは完全なる“無”だった。

 脱いだばかりの服を身に纏うと、男を振り返ることなく部屋を出る。もう、二度とこの男を抱くことは無いだろう。

 何故愛してくれないか?

 そんなの簡単な事だ。
 男だとか、女だとか、そんな事は関係ない。お前はあの子じゃ無かった。

 ただ、それだけの事だ。





「おかえり諒くん。今日は早かったね」
「………」
「諒くん?」

 真夏の太陽の下、欲を押し込めた体を引きずって家に戻れば、太陽よりも眩しい笑顔を向ける紫穂が出迎えた。
 容姿だけで言ってしまえば、どこにだって居る普通の少年だ。和穂や由衣の方が世間一般では“綺麗な子”だと評価されるだろう。だが、俺にとっては唯一無二の存在。たった一人の愛すべき相手だった。

「帰ってたのか」
「うん! みんなはまだ遊んでるけど、あんまり暑いからオレだけ帰ってきちゃった! 諒くんも暑かったでしょ? いっぱい汗かいてるよ」

 日に焼けた小さな手が、靴を脱ごうと屈んだ俺の額を撫でる。

「ほら、びしょびしょだ」

 そう言って笑った紫穂に俺は眩暈を起こした。今すぐその細い首筋に喰らい付きたい…そう頭の奥が叫び痺れる。俺の汗を纏ったその手を思わず掴んだ。

「わっ、…?」
「お前も汗かいたんだろ、風呂入ったか?」
「へ? あ、ううん、オレもまだ帰ったばっかりだもん。あのね、和穂も…」
「紫穂」

 ゴクリ。
 唾を飲み込む音が妙に耳に響く。

「紫穂、一緒に風呂に入ろうか」




 限界だったんだと思う。
 何も知らずに笑いかける笑顔が、懐き寄ってくる時に香る子供独特の香りが、俺の脳髄を奥底からどんどん腐らせていく。

【ダメだ、止めろ、全てを失うぞ】

 誰かがずっと頭の中で叫ぶが、紫穂の手を引き歩く足は止まらなかった。何故なら、俺には失って困るものなど何も無いからだ。
 紫穂さえ手の中に入るなら、俺は何を失っても構わない。

【今すぐ紫穂を食い散らせ】

 その本能に、従わない理由は一つも無かった。





「ほら紫穂、手ぇ上げろ」

 衣類を取り払わせ浴室に放り込むと、肌に触れる理由を作るため早々にボディソープを手に取った。少し温めのシャワーを出しっぱなしにして、音や声が響くのを防ぐ。

「え〜? 洗うの? 水浴びだけで良いのにぃ」
「ちゃんと石鹸つけて洗った方が涼しくなるぞ」
「ほんとに? ん〜…わかった洗う」

 簡単に騙される子供に口角を上げた。スポンジは使わず、直接掌に取ったボディソープを紫穂のカラダに塗る為に紫穂の腰を掴んだ。その手を一気に上へと滑らせる。
 十歳のカラダはまだ未発達で幼く、腰を掴んだ両手の指が付いてしまうかと思うほどに細い。

「ふあっ! りょ、りょーくんスポンジは!?」
「洗うって言っても適当だからな、スポンジは使わない」
「そうなの? あっ、はは! や…くすぐったいよ! わっ、わっ」

 何度も何度も腰から胸まで手を往復させ、少し慣れたところで胸の粒を引っ掻いた。

「ひゃんっ!!」

 甘い声に思わず舌舐めずりする。

「もっ、もういーよ諒くん! あっ、あっ!」

 片手は腰から胸を撫でたまま、もう片方の手を背に移し尻を揉んだ。その手の指一本を割れ目に沿わせると、思った以上に紫穂のカラダが跳ね上がった。

「紫穂、じっとしてろ」
「だって! やだよ、やっ」
「隙間は汚れが溜まるだろ?」
「でも! そんな、変なとこやだよ!」
「良いから…はい、反対向いて」
「あ! あ! やだ! 変なとこ触んないでっ、て…言ってるのにぃ!」

 シャワーの音では掻き消せない、男の情欲を煽る声が響いていた。案の定、先ほどまで無かったはずの人の気配が浴室の外にある。
 磨りガラスに映ったそのシルエットから、多分双子の片割れだろうと予測がつく。
 その存在が聞き耳を立てていることは分かっていたが、だからと言って手を止めることはしなかった。

 壁に手をつかせた状態の紫穂を背後から抱き込み、片手は尻の割れ目を擦り、もう片方は小さな男の証を握りこんだ。まだ幼いカラダは幾ら刺激を与えても“そこ”に反応は見られない。その刺激を快楽として受け止めることさえ出来ていないだろう。

 そう、これは俺の欲だけを追った行為だ。
 一方的で、優しさの欠片もない行為だ。

 ヤダヤダとべそをかく紫穂に、哀れみを感じながらも欲情した。自身の硬くなったソレを服越しに紫穂の柔らかい肌へと擦り付けると、恐怖故か紫穂は遂に本格的に泣き始めた。だが、それでも行為は止まらない。
 首筋を舐めてはキスを落とし、紫穂の小さなそれを弄びながらひたすら腰を揺すった。
それは永遠、俺が絶頂を迎えるまで続けられた。




「誰にも話すなよ?」

 真っ青な顔をした幼い弟に、そんな事を平然と言ってのける俺は兄失格だろう。
 だが、それが何だと言うんだ?
 俺は兄だなんて立場を望んじゃいない。なんなら自ら進んで捨ててやっても良い。

 そんなものがどうでも良い程に、俺には欲しいものがあるのだから。



 ◇



「諒くん、由衣がフライングしたよ」

 準備室にひっそりと響く、だが何処か怒りを含んだ声に俺は大きく紫煙を吐き出した。

「どっちをやられた」
「前」
「寮監情報か?」
「録画をさせてた」

 由衣に傾倒していたはずの寮監は、いつの間にか和穂の下僕に成り代わっていた。弟ながらに恐ろしい奴だと思う。敵には回したくない男だ。

「どうする?」

 その問いに答えるようにして、まだ随分と長かった煙草を捻り潰した。

「動くぞ」

 その戦いの合図に、目の前の獣が嬉しそうに笑った。
 この存在のお陰で過去一度休戦を余儀なくされているが、今回ばかりはそんな余裕も無いだろう。今度こそ、自ら俺の元へ堕ちて来させてみせる。
 思った以上に沢山の獣が闇に隠れ目を光らせている。正直、勝負の行く末はまだ掴めていない。
 だが負ける気もさらさら無かった。何故なら、紫穂はもう窮地に立っているからだ。

「逃げ切れると思うなよ、紫穂」

 既に追い込まれている事も知らずにいる無垢な存在を思うと、口角は自然と持ち上がった。


END


※首筋へのキス→執着・欲望

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