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もう一つの世界



※最終話をガラリと変えたバージョンです。
兄弟end…と言いつつ、兄弟を(和穂を)選んだ場合の上代endって感じです。


☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.



 辺り一面真っ青で雲ひとつないそれは、まるで天国の様だと思った。でも、ここはそんなにいい場所じゃない。ここは消毒のニオイが充満する白い世界。

「次男くん」

 天気の良い屋上で、大の字に寝転んでいる紫穂の頭上から良く知った声がかかった。

「退院おめでとう、上代」
「何でそれ聞くために、俺がお迎えに来なきゃなんないのかなぁ」

 あ〜ぁあ! なんて態とらしい溜息をつきながら、上代は近くにある色の剥げたベンチに座った。

「まだ痛々しいな」

 上半身だけを起き上がらせ上代を見れば、まだその体は肩から腕までを真っ白い包帯と共に固められていた。シャツから覗く肌も少し変色が認められる。
 あの日、上代は和穂から紫穂を庇い右肩に怪我をした。金属バット程大きくは無くとも、文化祭か何かで余った鉄の廃材で加減無しに殴られたのだ、当然打ち身だけでは済まなかった。

「バッキリ行ったしね。でもまぁ、綺麗に折れてくれただけマシかな?」

 ははっと笑う上代に、紫穂は合わせて笑う事が出来なかった。二人の間に暫し沈黙が流れ、やがてその静寂を紫穂が破る。

「ごめん」

 たった一言だった。だがそのたった一言がこの場の空気を変えてしまった。いや、変わったのは上代の纏う空気だけだったのかもしれない…。

「それは何の“ごめん”?」
「……上代、俺は」

 そこまで紫穂が言った所で上代が立ち上がり、やがて紫穂の隣に腰を下ろすと大の字に寝転んだ。紫穂が見下ろした先の上代は、誰を見る事もなく空を仰いでいる。

「ねぇ、次男くんはちゃんと分かってる? 怪我の度合いで言えば俺と長男、四男くんは骨折、次男くんは頭部の打撲……重症に見えるのは確かに俺たちの方だ。でも、実際一番危なかったのは次男くんなんだよ?」

 上代は肩の骨折、諒は腕と足の骨折、そして由衣はあの時壁にぶつかった衝撃で腰骨にヒビが入ってしまった。だがどれも命に関わるものはなく、時間と共に治癒するものだ。しかし、紫穂の場合は少し状況が異なった。

「三男くんは一発で頭を狙った。場所がズレてたから脳震盪と打撲だけで済んだけど、一歩間違ってたら死んでた。アイツはお前を…本気で殺す気でいたんだ……狂ってるッ」

『後数ミリ下だったら死んでたよ』

 目を覚ました紫穂に医師が苦笑いしながら言った言葉は、全くもって笑えない話だった。紫穂は目の合わない上代の顔から視線を外すと、再び同じ様に寝転がった。

「なぁ、上代。俺の兄弟は“狂ってる”のかな…」

 上代がこちらを見たのが分かった。

「嬉しかった。上代が俺を探し出して、あの場から連れ出してくれた時…俺にはお前が本物の救世主に見えた」

 暗闇の中、繋がれた手の温もりを思い出して笑う。

「茂みで言ってくれた言葉も嬉しかったよ」
「次男く…「でもね」

 何かを言おうとした上代の言葉を遮る。もう、心を揺らさせる訳にはいかなかった。

「諒くんを狂わせたのは俺、由衣を狂わせたのも俺。和穂をあそこまで追い詰めたのも……俺。全て弱い俺が引き起こした事だ」
「そうじゃないだろ!?」

 上代が上半身を起こす。今度見下ろされるのは紫穂の番だった。

「彼奴らが狂ったのは彼奴らの責任だ、お前が取るべきモンじゃないッ!」

 激昂する上代に目を向けた紫穂は笑う。

「俺、あの時安心したんだ」
「なにっ、」
「お前が倒れて、その先に和穂を見つけたあの時。怒って、何かを振り上げるそれを見た時……俺、安心したんだ」

“あぁ、やっぱりお前は俺を諦めない”

「なぁ、本当に狂ってんのは…誰だと思う?」

 紫穂の目から涙が零れた。

「俺はあの手を放せないんじゃない。放したくないんだ」

 ごめん。
 言った瞬間、紫穂の唇は覆い被さってきた上代に奪われた。舌を差し込むような官能的なものでは無く、それでも深く啄ばむような、軽いようで…軽くないそれ。互いに小さな声を漏らし、縋る様にキスを与えあった。
 最後に大きく吸い上げた上代は、唇を離すと紫穂の首筋に顔を埋めた。その頭に、紫穂がそっと手を添える。

「和穂は今、俺と一番仲の良かった年齢に戻ってる。アイツは、自分を捨てた俺の記憶を消して、また初めからやり直そうとしてる。俺はそれに応えてやりたい」
「半身、だから?」
「俺にとっても無くちゃならない存在なんだって…こうなって漸く気付いたんだ。俺は和穂から離れない。ずっと側にいる」
「……………」

 上代は更に強く顔を押し付けた。
 何だか、そうしないと紫穂が消えてしまう様に思えて……

「どうしても俺を選べないの…?」

 子供みたいにしがみ付く上代に、紫穂はふっと笑って言った。

「例えこの世界では無理でも…いつか、お前を選べる世界に生まれたい」







 この世界は回ってる。
 ぐるぐるぐるぐる、永遠に回り続ける。
 そして何千、何万、何億の時を超えてやがて新しい星が巡る時…また、新たな星が生まれる。願わくはどうかその時まで…






俺を、忘れないでいて―――





END


※和穂と兄弟を選び更に時空を超えて上代までもを縛り付ける、ある意味紫穂ヤンデレend。


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