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3-2 (完)


【SIDE:上村】


「うわっ、この部屋エロ臭い!」

 その声は少女のモノのように聞こえる。

「まだ居たのか」
「なんつぅ言い草だよ。ここまで付き合ってやったのにさ」

 その見た目もまた、矢張り“女の子”としか言えない愛らしさであり、洋服もワンピースを身に纏っている。だが、

「乗り気だった癖によく言う」
「だって、男相手って少し興味あったんだもん」
「…お前、まさか」
「ブブー! 僕は女の子が好きだよ!」
「その格好でか」

 上村美月。
 上村家の次男であり、そして俺、上村彗月の弟。つまり、正真正銘“男”である。

「これは単なる趣味だってば。実際されるのもフェラまでが限界! アイツ僕のケツに挿れようとしたんだよ!?」

 ボッコボコにしちゃった!
 そう言った美月の手には薄っすらと血が付いている。

「美月、やり過ぎるなと言っただろう」
「しょーがないじゃん! 兄貴が遅いからでしょ!? ヤリ過ぎだっつの、外まで声漏れてたよ!」

 プリプリと音を立てながら憤慨する美月が、未だ俺の腕の中で意識を手放している糸眞に近づいて来た。

「へぇ、良く見ると可愛いじゃん」
「興味を持つな」
「そりゃ持つでしょ! だって、あの“氷の王”の氷を溶かしちゃった人だよ?」

 美月の言葉に思わず顔が歪む。

「そのダセェ呼び名、止めろ」
「はは! 確かにダサい!」

 ケラケラとら笑う美月と共に、後片付けは勿論、鍵を閉めることなく店から出る。
 裏口のすぐ側には先程まで美月が相手をしていたスタッフが一人倒れていたが、二人がそれを気にすることは無かった。


 高校で風紀委員長を務め学園を取り仕切る。それが、上村家の長男として最初の試練で有り、腕試しでもあった。

『上村委員長、有岡の件どうします?』
『………』
『いい加減上のジジイ共が煩いので、どうにかしないといけないんですが…』
『俺が請け負う』
『えっ!? でも、あの有岡をどうやって…』

 たかが中途半端な成績の落ちこぼれ一人に、俺の進む道を邪魔させる訳にはいかない。

『何が何でも従わせる。例え、何をしてでも…な』

 こうしてミイラ取りはまんまとミイラになった。だが、そうだと気付くのはそれから10年以上も後になる。

「顔見た瞬間に勃たせるとか変態だよね」
「…………」
「で、ケイバン置いてシカトされるとか…ぶふふ! すっげーウケんだけど! って痛! 蹴らないでよ!」

 あの日、店で糸眞を見つけた時。
 あの俺を見る目を見たあの時。
 俺は言い様の無い高揚感を味わった。
 高校を卒業してからずっと足りなかった“何か”を、やっとあの時見つけたのだ。

「ねぇ、その人にあんまり酷いことしちゃダメだよ?」
「………」
「さっきも泣いてたじゃん、可哀想に」

 そう言った美月に、俺はふんっと鼻を鳴らす。

「可哀想? はっ、馬鹿を言うな。俺はコイツの望む通りにしてやったんだ」

 無理矢理カラダを開かされ、擦り、揺さぶられ味わう快楽から逃げた糸眞は、女を抱くことが出来なくなっていた。
 更に部下を使って調べされてみれば、あれ以降誰とも交わっていないと言うではないか。
 それを知った時は思わず声を上げて笑ってしまった。
 糸眞は、とうの昔から俺の物だったのだ。

 何と健気で哀れで可愛い奴だろうか。
 愛おしい。
 だから解放してやった。
 俺から受ける快楽をもう一度植え付けて、俺以外を選ぼうとする苦しみから解放してやったのだ。

「まぁコイツの性格上、抵抗はするだろうけどな。そうして最後に絶望して泣くところが一番気に入っている」
「……うっわぁ」

 美月は綺麗に整えられた眉を器用に歪めた。

 腕の中で糸眞が身じろぐ。
 覚醒は間近かもしれない。
 今の自分の状況を認識したら、コイツはどんな反応をするだろうか?
 あの頃の様にまた、怒るだろうか?抵抗し、襲いかかって来るだろうか?
 そうしてきっと、見せるのだ。


 あの、
 絶望で潤んだ美しい瞳を―――


END



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