B


「君に言葉のアメを与えるのにいちいち断りを入れるなど無粋にも程があるからな。僕の称賛を当然と受け入れられるくらい、度量と技量を磨いたらどうだい、白河真言。そうなれば僕もいちいち神経を尖らす事もなくなるし、多少君をおだててやるのもやぶさかではない。但し図々しさを助長させたら容赦なくけなしてあげるが」
「……お前な……」



ペラペラと回るイヤミ口調に、俺はもうため息をつく他ない。……こういう時の芳野宮は本当に生き生きしている。こういう奴だってわかってるから怒る気にもならないが、もうちょっとマシな言葉をかけてくれたって。……と、ちょっと俺がいじけた気分になっていると、芳野宮は肩をすくめながら言った。



「とはいえ、僕の心に叶うコーヒーを淹れられるのは今の所、校内では君が一番というのは変わらない事実だからな。これからもよろしく頼むよ、白河真言」
「……、」
「そういうわけだ、……コーヒー」



思わぬ言葉に目を見開くと、にっこり、……というより、ニヤリ、と笑って芳野宮はトントン、と指で机を叩く。その気障なしぐさは恐らく芳野宮にしか似合わないだろう。……ちくしょう、けなすだけけなしといて、不意に持ち上げるとは卑怯な。そんなイヤミ王子に、俺はわざとらしくため息をつきながら言った。



「全く、……イヤミ王子が」
「……」



俺の精一杯のイヤミには、芳野宮はただ笑って答えない。そして完全にまた机の上の書類に視線を戻してしまったから、本当に忙しいのだろう。しょうがないなー、と思いながら、俺はとりあえずコーヒーサイフォンの方に向かっていき。そして俺がコーヒーをいれ終わる頃には芳野宮も榎田くんも完全に仕事の方に没頭していたようなので、俺は邪魔にならないとこにカップを置いて、昼ご飯の用意をすべく簡易キッチンの方に向かって行った。



そして、一時間弱後。どうやら仕事にメドが立ったらしいので、俺は二人に問いかけた。



「おい、そろそろ飯にしないか。もう一時回ってるぞ」
「ああ、そうだね」



芳野宮はチラリ、と時計を見ると榎田くんに言った。



「榎田、小休止だ」
「はい!やった、白河先輩のご飯!」



芳野宮に声をかけられた途端、榎田くんは書類を片付け、応接用の机に移動する。さっき『お腹すいた』と言ってただけに、かなり空腹だったのだろう。優秀なくせに愛嬌のある後輩に目を細めつつ、俺はランチョンマットをひき小皿とフォーク、スプーンを置いた。

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