A


「あ、白河先輩、僕の分まで淹れてくださるんですか?」
「うん、ついでだし。今日はここで最終調理するからちょっと時間かかるからさ、コーヒーでも飲んで待っててくれよ。芳野宮が忙しいってことは君も忙しいんだろ」
「いえいえ、そんな。……でもやっぱり白河先輩は宮様のお世話係にぴったりだなぁ」
「……は?」



何だか以前も言われた台詞を聞き、俺は思わず眉をしかめてしまう。しかしそんな俺に気づかないのか、ニコニコと榎田くんは無邪気な笑顔を向けながら言った。



「しっかり宮様のお食事の支度をしてくださる上、他の親衛隊と違ってきちんと放任していただいてますし!」
「……いや、それは世話係としてはよくないんじゃ」
「いえいえ、宮様はあまり構われるのがお好きではありませんから、白河先輩くらいがちょうどいいんです。白河先輩、やっぱり書記親衛隊に入りませんか?白河先輩がいてくれれば、僕も宮様が三食摂られてるか気にしないですむし、役得もあるし」
「……」



ニコニコ、と榎田くんは言う。それにやっぱり俺は乾いた笑みを浮かべながら言った。



「……いや、遠慮しとくよ。毎日こいつと顔を合わせてたら俺までイヤミ口調になりそうだ」
「おや、心外だな、白河真言。それだとまるで僕が君に嫌みばかり言っているようじゃないか」



こういう時だけよく聞こえるらしく、芳野宮は顔を上げイヤミったらしく笑う。それに心底ため息をつきつつ俺は芳野宮を睨み付けた。



「なんだよ、事実だろ。さっきだって俺のコーヒーが旨いって言えばいいのに『それなり』ってなんなんだよ。ちょっとでも誉めてくれりゃあ、俺だって気持ちよくコーヒーを出す気になるのに」
「ほう、それは失礼。だが、君は僕が少しでも誉めると途端に挙動不審になるだろう?一度それでお気に入りのカップを割りそうになったのを僕は忘れていないぞ」
「……ぐ」



身に覚えのある失態に、俺は思わず言葉を詰まらす。いつぞや、会心のコーヒーを出した時に芳野宮に『これはなかなかだな。成長したな、白河真言』と言われ、あまりの意外さに俺はカップを取り落としそうになったのだ。……いや、前触れもなくこいつが誉めりゃあ、そりゃあびっくりするだろう!しかしそれ以来、芳野宮が俺を誉めた事はない。そして今も、イヤミったらしい笑みを浮かべつつ、芳野宮は俺に言った。


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