A


××

ナグラ:『突然ベッドにボクは押し倒され、肩を押さえつけられた。突然の事にボクがびっくりしてると、サワキくんは真剣そのものの顔をしながら言った。』


サワキ:『好きだ!お前が好きなんだ、レイタ!』


××


「……!」



その音声、そして表示されたイラストを見た途端、周囲はどよめいたようにざわつく。しかしそれ以上に驚いていたのは、その音声にそっくりな爽だった。爽は頬をぴくぴくさせながら呻くように言った。



「……な、な、……こ、こりゃあ、」
「じゃじゃーん、今回れーたにクリアしてもらいたいのはサワキソラくん、ちょっとおバカな陽気なスポーツマン!」
「な、なにぃ!?」
「いやー、ちょっと見てみたくてさー、れーたが親友くんとのプレイにどんな顔するか!さー、れーた、どう!?」
「……」



期待に満ちた顔で遊馬先輩は俺の顔を覗きこむ。それに俺は答えた。



「……興味深い」
「な、なんだって?!正気か、名倉くん!」
「……」
「お、おい、澪汰!」



俺の言葉に、マモリは驚き、門田はため息をつき、爽はぎょっとした顔をする。そしてそれを見た遊馬先輩は興味深そうに俺の顔を覗きこんだ。



「ほー、意外な発言!そりゃまたなんで」
「あまりに現実と解離しているとむしろ『なぜそうなる』という疑念しかわきません。……遊馬先輩、なぜこんな事態に」
「あー、それはねー、サワキくんは主人公の親友で、つねづね主人公を守りたいと思ってたんだけどぉー、あまりに回りに人気の主人公を見て思い余ってー、的にぃ」
「……ありえんな、それは」



そう言いながら俺はマウスをカチカチと動かす。それを見、遊馬先輩は首を傾けながら言った。



「あれ、平気そうだね、れーた」
「ありえなさすぎる設定なら笑えます。むしろどうなるか見てみたい」
「……っ、」



俺の言葉を聞き、爽は嫌そうな顔をして俺を見る。そして遊馬先輩は俺と爽を見比べるとにっこり笑いながら言った。



「よーし、じゃあれーた、しゃきしゃきやろうね!但し親友くん、君もれーたのプレイを見届けなよ!」
「な、なんでオレが」
「そりゃー、なんか面白そうだからに決まってんじゃん!さ、れーた、続き続き!」
「はい」
「……マジかよ……」



遊馬先輩の言葉に俺は頷く。それを見た爽は頭を抱え、マモリと門田は何か言いたげな顔をしていたが、俺はゲームを続けた。



××


サワキ:「レイタ、オレと一緒にいてくれよ、他のヤツなんか頼らないで、オレだけを見てくれよ……!」


『そう言いながら、サワキくんはボクの手にサワキくんの、……を触らせる。その熱さにボクは思わず震えてしまった。』


ナグラ:「さ、サワキくん、」


サワキ:「ごめんな、でも、もうオレ、限界なんだよ、……親友としてだけじゃなくて、男としてオレを見てよ、……レイト!」


××

「……」
「……っ、」



特に感慨もなく、俺はマウスをカチカチと動かす。そんな俺の横で、爽は何かおかしな顔をして顔をひきつらせていた。そんな俺たちを、遊馬先輩は興味深げに見た。



「ありゃ、れーた、あまりにもフツーだね、意外。なんで」
「ここまでくればただのお笑いでしょう。爽がこんなになるわけがない。ましてや俺なぞに劣情を抱くなど」
「なるほどー?」



そう言いつつ、遊馬先輩は思わせ振りに爽を見る。そしてげんなりしたその様子を見、楽しげに言った。



「よーし、じゃあ、シャキシャキやろうねー、ちゃーんとエッチシーンもやるんだよー」
「はい」
「……!」



遊馬先輩に俺は再度頷く。それに爽はますます嫌な顔をしていたが、とりあえず先を見てみることにした。


××

ナグラ:「あん、……やぁ、サワキくんっ」

サワキ:「レイタ、……気持ちいいか、レイタ」

ナグラ:「や、あん、っ、……き、気持ちいいっ、……さ、サワキくん、ボクをぎゅってして、……すき、好きぃっ、ほんとはボクも、キミを好きだったのぉっ……!」

サワキ:「マジか、ああ、……レイタ、オレも好きだ、愛してる……っ!」


××

「……!」
「……」



その手のシーンになった途端、爽は仁王像のような表情になり、聞いていたマモリはなぜかチラチラと俺の表情を見る。そして俺はただカチカチとマウスを叩き、遊馬先輩はまたそんな俺に話しかけてきた。



「おー、平気そうだねー、れーた、これでも」
「人選を誤られましたね、遊馬先輩。不覚にもヤクザワの時は不意を突かれましたが、爽ならばこんなものは笑うだけのものです」
「……ふーん、じゃあ、さわッチならどんなものでも笑える自信あるわけ」
「はい」
「……その言葉、嘘はないかなー?」
「はい」
「へー、なら証明してもらおっかぁ!実はサワキくんにはバッドエンドもあってねー。思い余って主人公を監禁し、縛り上げてDVするバッドエンドってのが」
「!!」



その言葉に、俺はぐっと興味をひかれる。……監禁、DV?……それはなんという、



「……」



俺は無言で遊馬先輩を見やる。すると遊馬先輩はニンマリ笑い、



「よーし、じゃあ第二ラウンドだ、れーたに証明してもらうよ!サワキソラくんバッドエンド開始ー!」
「……!」



遊馬先輩の言葉に、爽は今度は鎌倉の大仏のような顔になる。それを見つつ、俺はまたゲームを始めた。


××


……そして、バッドエンドまでゲームをやりきった後。後には疲れきった爽と「なんか今回はつまんなかったなー、ぶー」と怒っている遊馬先輩が残った。マモリは「これを見る限り名倉くんと沢谷に可能性がないことがわかってよかった」と晴れやかな顔をし、門田は爽に「……まあ、気を強く持てよ」と肩を叩いていた。……そして、



「……爽、大丈夫か」
「……疲れきった」
「そうか、悪かったな。お前ならばスルーできるかと思ってたんだが」



俺がそう言うと、爽はぐったりした顔をしながら言った。



「……こういうのは笑えねぇ。マジでオレにとっちゃ最低のバツゲームだ……」
「そうか。だが、俺はお前で助かったが」
「……あ?なんで」
「あんな行為、お前とならば笑えるが、他の連中では不快になるだけだろうからな」
「…………………」



俺の言葉に、爽はとてつもなく微妙な顔をする。そんな爽の肩をぽん、と叩きながら俺たちは遊馬先輩たちの部屋から去ったのだった。



・END・

お題・『毒めも』に爽編だけノリノリの名倉

ノリノリ、かどうかわかりませんがこんな感じで。


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