すききらいすききらいすききらいすききらい、
千切られた花は萎れて透明に。我ながら女々しい。
目の前に源田が横たわっている。
遂に死んだのかと思ったが、その十数秒後に源田が寝返りを打ったのでその考えは泡と散った。
誰よりも早く起き必ず一番最後に眠りにつくこいつが、人前で眠っているのに驚いた。そういえば、佐久間や小鳥遊がいないことに気がつく。
今日潜水艦は海面に浮いていた。俺たちは久しぶりに休暇を与えられたのだ。本来ならば今この時間でさえも、練習に明け暮れていなければならないのだろう。しかしどういった訳か総帥は、俺たちを1日だけあの石から解放したのだった。
他のやつらはそりゃあもう喜んだ。俺はそんなあいつらを見て哀しくなった。どう足掻いても中学生は中学生でしかないと突きつけられたようだった。

「おい源田」「おいって」

起きろよ、と軽く脇腹を蹴とばす。源田は小さく唸りこちらを見て、すぐにまた目を閉じてしまう。

「すごく眠いんだ、頼むから寝かせてくれ」
「勿体ねぇなあ」

勿体ねぇ勿体ねぇ、不動が呟くのを、源田は頭の隅で反響させていた。
源田自身も、勿体無いと思っている。本当に久しぶりの休みなのだ。他のメンバーのように、短時間だけでも普通の中学生にもどりたかった。最も、今までの自分が普通だったのかと問われれば、すぐには答えられないが。

「なあ源田、外、行こうぜ」

*


ぽたり、折れ曲がったストローの先からオレンジジュースがたれた。
店内の時計は15時38分を差している。
源田は眠気眼をどうにか開きながら、目の前のサラダとハンバーガーをどう処理しようか悩んでいた。不動が勝手に注文したものだが、捨てるのは勿体無いししかしだからといって、今何か食べるのは気が憚られた。
胃はおそらく、食事を望んでいない。

「食わねーの」
「そんなに、腹は減っていない」
「あっそ」

不動は眠ろうとしていた俺を強制的に立たせ、そしてそのまま街に連れ出した。取り敢えず腹ごしらえだ、とファストフード店に入ったが、不動も俺も空腹ではないようだ。不動に至ってはバニラシェイクをすこしずつ啜るだけで、勢いだけで注文したセットには手をつけていない。
頭痛がする。
佐久間は何処に行ったんだろう。

「…お前さァ」
「なんだ?」
ズズッと高くて低い音がする。不動はこちらを見据えながら何かを考えているようだ。猛禽類に似た鋭い目が俺を射抜く。
それが気まずくなって、ふいと視線を外したら、ズコッとやけに響く音が耳を刺した。丸かった紙カップが側面をへこませている。

「俺の顔に何かついているのか」

「…べっつにぃ?いつも通りのクソ真面目な面ァしてるぜ?」

あーあ。
何かシラけちまったなあ!
今度は不動が視線を合わせてくれなくなった。何かしてしまったのだろうか。冷えかけたポテトを口に運びモソモソと咀嚼する。固まり始めた油が美味くない。
不動もそれを皮切りに、セットにてを伸ばした。二人ともそれを10分かけて胃に押し込むと、特に何するでもなく真っ直ぐ潜水艦に戻った。結局、俺たちの休日は終わってしまう形になる。
もう眠気は感じなかったが、何だか腑に落ちないことがあった。不動がまるっきり口をきいてくれないのだ。
1メートル後ろを歩きながら何度も問いかけてみる。しかし返事は無い。
知らぬ間に機嫌を損ねてしまったのだろうか。
思い当たる節はなかった。

潜水艦は、人口密度が減ったことにより何時もより数倍肌寒い。まだ佐久間たちは帰っていないようだ。

自室に戻った源田は、狭い部屋でじっとしているのは性に合わないのでユニフォームに着替えコートに向かった。案の定そこには誰もおらず、寂しさこそ感じないが閑散としたグランドの肌寒さは、ゆっくりと体に染みていった。
ひたすらにボールを追いかけ、右へ左へと走り回っているうちに外ではすっかり日が沈み、佐久間を含めたチームメイトたちが続々と街から帰ってきた。
みなが各々に久しぶりの休日に対する感想を述べていた。源田がそのことに気がついたのも、メンバーの楽しそうな声が廊下から聞こえてきたからだ。
源田は自主トレーニングを中断すると、重い扉を開けてグランドを出た。しばらく行ったところで、今日初めて佐久間を見かける。すっきりした表情をしているから、きっとこの日を満喫してきたのだろう。
ユニフォームを着てグランドから出てくる源田を見て、驚いたように話しかけてきた。

「なんだ源田、お前今日出掛けなかったのか?」

「佐久間…いや、一応外には出た」

「ふーん」

生返事と共に自室へと足を向けた佐久間に倣い、源田もそのあとに続いた。

「お前本当に知らねえの?」

「何を」

「…今日の休み、不動が総帥に無理言って作ってもらったんだぜ」

「それはまた、なんのために」

「お前の為だろ」

俺の為、とはどういうことだろうか。
不動に訊ねたところで答えてはくれないだろうから、とりあえずは感謝しておくにした。
しかし、不動が俺の為に何かしてくれるなんてことがあるのだろうか。
考えれば考えるだけ謎は深まるばかりだ。

足を止め天井を仰ぎ見る。
そういえば肩が軽い。



11.04.23




caloさんに捧げます。
散々待たせてしまった挙げ句、期待に沿えていなかったらすみません…

しかしそこが私らしさだと!受け取っていただければ幸いです。

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