甘い噂に尾ひれ
ほんの数分待てば、すぐにケーキと飲み物はきた。
互いのそれを交互に見つめ、沖田は笑った。
「桜花ちゃんって、変わってるね」
「モンブランにメロンソーダを添えてる先輩に言われたくありません」
桜花の目の前にあるのは、ちょん、と上に小さな小人の砂糖菓子と苺の乗った、薄桃の苺クリームのケーキだった。
色と飾り以外ショートケーキとなんら変わらない
一見シンプルなのだが、小人の見た目の可愛さから選んだのだろう。
対し、沖田が頼んだのは、先程桜花が言った通りモンブランだ。
もっと甘そうなものを選ぶと思っていた分、桜花は驚きを隠せなかったのだが、まるでそれを見越していたかのような沖田の笑顔にはぁとため息をついたのは記憶に新しい。
そんなやり取りを経て、二人はいただきます、とケーキを食しはじめた。
甘い味が口の中いっぱいに広がって、思わず笑顔になる。
「……そういえば先輩。土方先生に叱られるような何をやって来たんですか?」
上機嫌に笑ってケーキを食していた桜花のすぐ横で、沖田は、ああ、と言ってさらに楽しそうに笑った。
沖田は桜花に顔を向け、肘をついてそれを支えながら桜花に尋ねた。
「知りたい?」
短めの焦げ茶の髪がさらりと頬にかかる。そんなささいな仕草にどきどきしながら、桜花ははっきりと答えた。
「知りたいから聞いてます」
「うん、内緒だよ」
にやにや笑って何を言ったかと思えば、まさかの内緒……。
そんな思いが顔に出ている桜花を、彼はやはり楽しそうに笑うだけだ。
「あの、先輩、」
「僕の言うこと聞いてくれたら、教えてあげる」
桜花の言葉を遮って放たれた言葉に、桜花は虚を突かれて目を見張った。
「はい!?」
「だから、僕の言うこと聞いてくれたら、教えてあげる」
「だったらいいです」
即答だった。ためらいの欠片もない返事に、沖田はひどいなぁと別段傷ついた風もなく笑う。
「沖田先輩の頼み事って、なんかろくでもなさそうですから」
「一つだけでもダメ?」
「………………内容によります」
飄々とした表情が少し真剣なものへと変わる。それに少し気圧されて、桜花は何度か視線をさ迷わせたあと、小さな声でそう応じた。
満足そうな表情で笑った彼に、桜花は少し頬を染めた。
しかも、近い。
それが分かった瞬間、桜花は更に顔を赤くした。