君を想ふ
「……近藤さんが!?」
お世話になっている植木屋の人達がひそひそと何かを話しているのが聞こえた。
何を話しているのかと思って耳を立ててみると、それは信じられない話だった。
近藤さんが板橋で斬首されたというのだ。
あの土方さんが一緒なのに、何でそんなことになったんだろう。何かの冗談なんじゃないかって、そう思った。
でも…。
『どうやら近藤さんは一人で投降したらしいぞ。新選組の他の者達は、近藤さんが投降したその時にはもういなかったそうだ』
どういうことだろう。
……じゃあ、土方さん達は無事ってことなのかな。
どうして?
何で近藤さん一人が捕まって、斬首に処されて……。
何で近藤さんも無事じゃないのさ。
いてもたってもいられなくなった僕は、もう動くのも辛くなってきた体をおして、馬を無理をいって調達してもらった。
そして、止める植木屋の人達を押し切って、土方さん達のいるだろう会津に向かった。
僕が土方さん達がいる屋敷に着いたのは夜だった。
土方さんがいるここに、本当なら近藤さんもいるはずなのに。
『総司!来たのか!』
いつもみたいににこやかに迎えてくれるはずの近藤さんの姿はどこにもなくて。
「………総司」
代わりのように出てきた土方さんの顔を見た途端、全部が現実なのが分かってしまって。
怒りが、込み上げてきた。
思わず土方さんの肩を掴んで、木に押し付けて。
「…何で近藤さんを見殺しにしたんだ!」
そう、土方さんに向かって叫んだ。
睨みつける僕の言葉に、土方さんは何も言い返せないみたいだった。
「何とか言えよ!」
僕がそう言っても、土方さんは何も言ってこない。
「……沖田さん?」
「あんたがいながら、何で近藤さんを助けられなかったんだ!」
目を閉じて僕の言葉をただ受け止めている土方さんを揺すると、甲高い制止の言葉が聞こえた。
「沖田さん、やめてください!土方さんは怪我をしてるんです!」
千鶴ちゃんの制止の声に、土方さんの姿をしっかり見た。
襟首から見える血の滲んだ包帯。何があったのかは知らないけど――それほどの怪我。
そんな怪我人にそんなことを言ってくれるなと、そんな風に揺すってくれるなと、千鶴ちゃんは言うのだ。
「くっ……」
唇を噛み締めて、土方さんの肩から手を離してゆっくり後ろに下がると、僕は踵を返した。