正月の醍醐味

3 きっぱり断る



「あ、あの、お断りします」

「何? 俺の誘いを断ると?」

「あの、今日は皆さんが来てますから、私はここでおもてなししなきゃいけないので…」

「お前に拒否権はない。さっさと来い」


 腕を掴まれたそれを話させてくれたのは、傍にいた永倉先生だった。


「風間、今日は帰れよ。酒がまずくなるじゃねえか」

「なに? たかが教師の分際でこの俺に指図するというのか?」

「たかが教師だぁ? 教師なめんじゃねーぞ」


 数学教師なのにどこか体育会系を思わせる先生が、腰に手を当てて、どこかの不良ですかと言わんばかりに風間先輩をにらみつけた。


「ふん、まあいい。今日のところはこれで帰るとしよう。また今度迎えに来る、待っていろ」

「誰が待つか!」


 永倉先生、それは私が言う台詞なんじゃ…?

 でも、これで風間先輩は帰ってくれたし。


「あの、永倉先生、ありがとうございました」

「ん? ああ、たいしたことしてねーよ。んじゃ、中に入るとするか。千鶴ちゃんの雑煮とおせち食って、早く酒のみてぇしな!」


 どうやら、永倉先生の頭の中には食べて飲むことしかないみたい。


 そこがなんだか楽しくて、私はくすくす笑った。







そのあと、家に来たお千ちゃんが持ってきてくれたおせちも合わせて昼に食べる準備を済ませた。


皆が準備してくれた席に各々ついて、私が作ったお雑煮を食べて。



お昼には、皆でおせちを食べることになっている。お千ちゃんの家の料理人さん手づくりの散らし寿司や、君菊さんお手製のおせち料理も付けると、私だけのだと淋しいおせちも豪華になった。




















「…食いすぎたぜ」

「だから言ったろが。八つに挑戦しててめえの腹が大丈夫か、ってな」


 雑煮の餅八つに挑戦した今年、見事に撃沈した。

 ちくしょう、餅のやろう。


「あの、これ胃薬です。飲んでおいたほうがいいかもしれませんよ、永倉先生」


 ちょうどそこに、薬と水を持ってきた千鶴ちゃんが気遣わしげに俺を覗き込んだ。


「わりいな、千鶴ちゃん」


 正月早々腹壊すたぁ、情けねえぜ。


「お昼までまだ時間もありますし、ゆっくりしててください」

「そうだな。酒も飲まないといけねぇし。…と、腹壊したお前にはそれは無理か」


 畜生、左之のやろぉ…。


「お餅はお腹に持ちやすいですから、お昼までにお腹が減ってるといいですね」

「おう。千鶴ちゃんのおせちも食べねぇといけねえしな」

「半分はお千ちゃんのうちのものですけど。それに、あんまり期待しないでくださいね?」


 そう言って、千鶴ちゃんは勝手場に戻っていった。


「期待させてもらうぜ、千鶴ちゃん」



 酒の肴になることを楽しみにしながら、おれは昼まで寝ることにした。






永倉END
《酒の肴》

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