正月の醍醐味

1 帰ってくれないかな



 どうしよう、私はここでお正月を過ごすつもりだから、風間先輩について行くつもりは無いし…。


 このまま帰ってくれないかな…。


 と、そこへ大柄な男性が入ってきた。


「風間、雪村君が迷惑しています。早くお帰りなさい」


 私の言葉を代弁してくださってありがとうございます、天霧先輩。


「なにをいう。この娘は俺と帰り、共に子宝に恵まれるよう数の子を食べるのだ」

「んな迷信信じてんのかお前。あんなもん食わなくても子沢山な家は子沢山だぜ」


 不知火先輩まできてたんですか…。


「ちょっと、あんた達邪魔よ! 用がないならさっさと帰りなさい!」


 甲高い声が、先輩達の後ろから聞こえた。


「明けましておめでとう、千鶴ちゃん。はいこれ。最高級数の子と、お菊お手製の黒豆と田作り。おいしいわよー!」

「明けましておめでとう、お千ちゃん。ごめんね、毎年頼んじゃって」

「いいのよ。私もここに来させてもらってる身だし、家にいても一人で退屈だから」


 にこにこと笑って、お千ちゃんはそう言った。

「これは千姫様、それに雪村君。明けましておめでとうございます」

「…とりあえず、明けましておめでとう、か」

「はい、明けましておめでとうございます、天霧先輩、不知火先輩」

「明けましておめでとう、天霧、不知火」

「正月早々苦労人だなぁ、お前は。風間もこりねえの」


 ははは…と私は苦笑するしかない。


 風間さんは西日本で一二を争う企業の御曹子。
 お千ちゃんは、日本で一二を争う、世界との交流も盛んな企業のお嬢様だ。風間さんの家の企業は、半分お千ちゃんの家の企業が支配している形になっているのだと聞いた。

それにしては風間さんのお千ちゃんに対する態度があまりにもぞんざいだけど…。


 雪村家も、以前は東日本でもトップクラスだった家だけど、今は倒産してしまってあの頃の影も形も無い。別に、今の生活に何の文句は無いけど…。


 昔の交流から、今も関係は続いてるけど…。


「さあ、帰りますよ。跡取りとしてあなたがやらなくてはならないことはたくさんあります」

「何を言う。我が嫁と正月を過ごすために、俺はこいつを連れ帰るつもりで来たのだぞ」

「うるさいわね、あんたがいると邪魔なのよ。さっさと帰んなさい」

「俺に指図するつもりか?」

「子会社の息子のあんたに言われたくないわね」


 子会社だったんだ…。
 それはともかく、ほんとに帰ってくれないかな…。


「千鶴ちゃんはどう見ても、帰ってほしいって顔してるわよ」

「…何を言う、我が嫁はつんでれなのだ。実は俺についていきたいと思っているに決まって……天霧、何をする!」

「失礼をいたしました。よいお正月をお過ごしください、我々は帰りますので」

「じゃあな。ま、学校に行き始めりゃ同じことが続くんだ、ご苦労なこったな」


 風間さんを強制連行した天霧先輩と、後ろ手を振る不知火先輩の後を、私達は見送った。


「じゃ、準備手伝うわね。何すればいいかしら」

「あ、うん。皆でこれからお雑煮食べるから、その準備手伝って欲しいな。お千ちゃんも食べる?」

「あら、私このこと見越して朝食抜きよ。楽しみだわぁ、千鶴ちゃんのお雑煮」


 お邪魔しまーす、と明るい声でお千ちゃんが家に入ってくる。


「お千ちゃん、今年もよろしくね」

「こっちこそ、よろしくね」


 二人並んで、私達はお勝手場に向かっていった。






 そのあと、家に来たお千ちゃんが持ってきてくれたおせちも合わせて昼に食べる準備を済ませた。


 皆が準備してくれた席に各々ついて、私が作ったお雑煮を食べて。



 お昼には、皆でおせちを食べた。お千ちゃんの家の料理人さん手づくりの散らし寿司や、君菊さんお手製のおせち料理も付けると、私だけのだと淋しいおせちも豪華になった。




















「ねえ、千鶴ちゃん。どう? お菊が作った黒豆」

「うん、おいしいよ」

「私も手伝ったの。作り方も教えてもらったわ」

「あ、じゃあ、今度教えて! 黒豆はまだ作ったことがなくて、来年はそれに挑戦しようと思って…」


 すごく頑張りやさんな千鶴ちゃんを見てると、私も頑張らなきゃって思う。
 そんな千鶴ちゃんは、私の一番の友達。


「今年は昆布巻き作ったんでしょ?」

「うん。ちょっと辛めの味になっちゃったけど…」

「そう? 私はこれで問題ないと思うけど」

「ほんと? ありがとう」


 こんな女の子同士の話が出来る子も正直少ないから、とても大切にしたい友達。

 だから。


「もしも風間が何か言ってきたら真っ先に言ってね。がつんといってやるから」

「あははは…。下手をしたら毎日言いに行くことになるかもしれないよ。だって風間先輩、会うたびに『俺の嫁になれ』だもん」

「ふーん…。ね、それが嫌ってことは、千鶴ちゃん、誰か好きな人でもいるの?」

「えっ! …それは、……」


 少し赤くなって、千鶴ちゃんは内緒だよ、と小さな声で教えてくれた。






 こんな話をできるのも仲のいい女友達ならでは。
 こんな仲がずっと続くといいな。





 これからも、どうぞよろしくお願いします。








千姫END
《大切な友達》

あとがき→





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -