正月の醍醐味

2 どう答えていいか迷う



「えっと…」

「二人ともやめろよ、千鶴が困ってんじゃんか」


 平助君…。


「特に総司! いい加減認めろよな!」

「え? 何が?」


 どう考えてもわざとにしか聞こえない。しかも確信犯の笑みでこっちを見ている。


「こっちに来い、お前に味見なんぞさせられるか。こんなとこにてめぇがいれば邪魔なんだよ」

「えー。別に僕邪魔してないじゃないですか。濡れ衣ですよ濡れ衣」


 むっとした表情で土方先生を沖田先輩は見上げていた。


「千鶴、まだあっちの準備は済んでねぇんだよな?」

「あ、はい。ちょっと人手が足りなくて…」

「よし、手伝ってやる。総司、てめぇも来い」

「えー」

「文句言わずにさっさと来い。近藤さんも来てんだ。校長を玄関先で待たせるつもりか」


 近藤校長の名前を出されちゃ沖田先輩も従わざるを得ないみたい。沖田先輩、校長先生のこと大好きだもんね。


「平助、てめぇはこっちを手伝ってやれ」

「OK!」

「あ、よ、よろしくお願いします!」


 三人にお辞儀をして、私は手伝ってもらうことにした。


「で、俺は何すればいい?」

「あ、じゃあ、そこにあるおせちを、重箱に詰めてくれる?」

「これ、全部千鶴の手作りか?」

「うん。あんまりうまくいかなったけど…」


 味付けに失敗しちゃったものもあるし、形があんまりきれいじゃないものもあるし…。


「そうか? 俺はそうは思わないけど」


 心の底からそう言ってくれている平助君の言葉が嬉しくて、私はありがとう、と言って笑った。


「あ、そうだ。これ」

「あれ、これって…」

「うん…。行くなら、何かお礼もってけって親に言われて……ごめんな、今こんなんしか思いつかなくてさ…」


 平助君の手にあったのは、隣町の遊園地チケットだった。


「三が日あけたら、行かないか?」

「うん。ありがとう、平助君」


 なんだか嬉しくて、私は心の底からのありがとうを平助君に言った。








 そのあと、家に来たお千ちゃんが持ってきてくれたおせちも合わせて昼に食べる準備を済ませた。


 皆が準備してくれた席に各々ついて、私が作ったお雑煮を食べて。



 お昼には、皆でおせちを食べた。お千ちゃんの家の料理人さん手づくりの散らし寿司や、君菊さんお手製のおせち料理も付けると、私だけのだと淋しいおせちも豪華になった。




















「こうやって遊園地に来るの、久しぶりだね」

「そうだな。何年ぶりだっけ?」


 そんな他愛もない話をしながら、遊園地を回った。

 こんなものでよかったのかよく分からないけど、喜んでくれてるみたいだからよかったと思う。


「ね、ちょっと休憩しよっか」

「あ、疲れたか?よし、ついでになんか食べようぜ」


 気づかなかったなぁ…。これからは気をつけねーと…。
 千鶴、何も言わねーからな…。


「はい、どうぞ」

「お、サンキュ。でも、言えば俺買いに言ったのに」


 いつの間に買いにいっていたのか、千鶴がジュースを買ってくれた。


「気にしないで。コーラでよかった?」

「あ、ああ。…なあ、千鶴」

「何?」

「…ごめんな、こんなことしか、できなくてさ……」


 そう言うと、千鶴は不思議そうに首を傾げた。


「…どうして謝るの?平助君と一緒にこうやって遊んでると、すごく楽しいよ、私」

「ホントか?」

「うん」


 飾り気のないその言葉がすごく嬉しい。


「物よりも、こうやって一緒にいる時間のほうが私は嬉しいかな」


 そうなのか…。……なら、今日ここに来たかいもあったな。


「なあ、千鶴」




 またいつか、こうやって二人で、いろんなところに出かける時間がつくれるといいな。





平助END
《かけがえのない時間》

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