正月の醍醐味

1 味に自信の無い昆布巻き



「この昆布巻き、おいしそうだね」

「あっ、それは一番味に自信がなくて……」


 止めようとしたけど、その時にはもう遅かった。


「……ちょっと、辛いかな…。僕は甘いほうがいい」


 だから言ったのに。味見してみたけど、あんまりいい味とは思えなかったから…。


「文句あるなら帰れば? むしろあんたら邪魔なんだけど」


 廊下から顔を出したのは、双子の兄だった。


「薫…」

「おはよう、千鶴。ああ、明けましておめでとう、だっけ?昨日はおはようでよかったのに、たった一日たっただけで挨拶が違うっておかしいよね」


 そこに反応する薫もおかしいと思う、世間一般的に。


「僕からすれば君の方が邪魔なんだけど。僕は味見てるの、邪魔しないでくれる」

「味見なんて体のいい言い訳だろ? さっき千鶴が困ってたし。つまみ食いしてる分際でうるさいよ」


 珍しく薫が私の肩を持ってくれてるみたい……。
 やっぱり、お兄ちゃんなんだなぁ……。


「ま、確かにはっきり言って醤油辛いね。何をどうしたらこんな味付けになるんだか。それに、沖田にいじめられて困ってるお前の顔もすごく見がいがあったし」


 その矢先、痛い言葉を投げられた。
 やっぱり薫は薫だ…。


「うぅ……」

「…ま、別に食べなきゃいけないわけじゃないしね」

「薫、昆布巻きには幸福を呼ぶって意味があるんだよ。ちゃんと食べないと」


 そう教えたら、薫は少し考えてから、すごくいいことを思い付いた、みたいな顔で笑った。


「ふーん。そうか……じゃ、俺が千鶴の分も食べてあげるよ。お前はそれの味に自信が無いんだろ? てことは自分じゃ納得の味じゃないってことだ」

「その言い方だと、君はその味に納得いってるんだ」

「その通りだよ、沖田。だから、可愛い妹の分も食べてあげるんじゃないか。優しいお兄ちゃんだろ?」


 言葉とは裏腹に、薫の顔には、お前の幸福も一緒に食べてやるよ、と言いたそうな笑顔が浮かんでいた。






 そのあと、家に来たお千ちゃんが持ってきてくれたおせちも合わせて昼に食べる準備を済ませた。


 皆が準備してくれた席に各々ついて、私が作ったお雑煮を食べて。



 お昼には、皆でおせちを食べた。お千ちゃんの家の料理人さん手づくりの散らし寿司や、君菊さんお手製のおせち料理も付けると、私だけのだと淋しいおせちも豪華になった。





















「……薫」

「なに」

「あの、それ、先生達の分」


 困った顔で俺を見てくる妹に、俺はいつもどおり笑顔を返した。


「別にいいじゃないか。俺は呼んでない、むしろ帰れって話だ。そんなやつらをもてなす義理は、俺にはないだろう?」

「でも、父様のお客様で…」

「綱道のことはどうでもいいさ」


 自分の実の父親でもないやつを敬う義理もないね。


「……皆さん、すいません」

「気にすんな、千鶴」

「まあ、確かに押しかけてる俺たちも悪いしな……」

「でもさ、何でわざわざ昆布巻きだけ自分で独占してんの?」

「僕達の幸福食べてやるんだってさ。面白いよね」


 沖田がこっちを見てくるけど、相手にするつもりはない。


「ただの迷信だろ?んなもん信じる前に自分で幸福掴め、南雲」

「悪いけど、俺は人の不幸を見るほうが楽しいんでね。自分の幸福のために食べてるわけじゃないよ、土方」






 はっきり言って、邪魔なんだよね。
 家族団欒楽しむ正月に部外者が入ってくるなって話だ。


「しょうがないなぁ…」


 諦めた風情の千鶴を見て、俺は笑った。





 そんなやつらを構うからだよ、千鶴。

 だから、そんなお前の困った顔を見るのが今日は何よりの楽しみなのさ。






薫END
《困った兄》

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