正月の醍醐味

2 斎藤先輩が持っている小さめの紙袋



「これは?」

「お前への土産だよ。な、斎藤」


 何故俺に振る、と言いたそうに斎藤先輩は眉を寄せた。


「勝手場にいるのは総司と平助かぁ? もめてるみたいだな」

「あ、その…沖田先輩がつまみ食いした事から始まってまして…」

「ったく、勝手場に人が集まりゃ邪魔だろ。それでなくても量が多いんだ。ちょっと手伝ってやるよ。おい新八、お前もきて手伝えや。力自慢見せるとこだぜ?」


 確かに、お盆にたくさん乗せて持って行けば力自慢になるかもしれないけど、お客様に手伝ってもらうなんて……。
 でも、私一人じゃ忙しかったのも事実だし…。


「じゃあ、お願いします」

「おう! 任しとけ!」


 意気揚々と勝手場に向かう二人について行こうとしたら、斎藤先輩に呼ばれた。


「こんなもので、悪いが……」

「あの、これは……?」

「……開けてみろ」


 後ろの喧騒とは一線を画したかのように、ここはとても静かだ。


「あっ……」


 紙袋の中には、落ち着いた和柄のシュシュが入っていた。


「いや、その……貰い物、なんだが、俺はそんなもの使わない。それに………」


 確かに男性の先輩には使う用途は無いだろう。私は学校にいくときとか普段に、シュシュで髪をまとめているけど…。でも、それに、のあとに続く言葉はそういうことじゃない気がした。

 でも、斎藤先輩はそこで口ごもってしまう。


「それに、何ですか?」


「……あんたに、似合うと思ったんだ」


 そう言われて、私は少し赤くなった。斎藤先輩はもっと真っ赤だ。

「ありがとうございます。いただきます」


 とても嬉しくて、私は笑顔でお礼を言った。







 そのあと、家に来たお千ちゃんが持ってきてくれたおせちも合わせて昼に食べる準備を済ませた。


皆が準備してくれた席に各々ついて、私が作ったお雑煮を食べて。



 お昼には、皆でおせちを食べた。お千ちゃんの家の料理人さん手づくりの散らし寿司や、君菊さんお手製のおせち料理付けると、私だけのだと淋しいおせちも豪華になった。




















 正月が開け、始業式の日。


「あ、斎藤先輩、おはようございます!」

「ああ、おはよう。平助はどうした」


 いつも通り遅刻指導していた俺の前に、この学園紅一点の雪村がやってきた。


「今日は私日直なので、平助は一緒じゃないんです」


 なるほど、と頷く俺の目に留まったものがあった。


「つけてくれているのか…」

「あ、はい。派手じゃないので学校につけてきても大丈夫だと思って」


 そういえば、平助が言っていたな。


『千鶴さ、髪結んでるシュシュ変えたんだよな。なんかこう、落ち着いた感じの色のやつに』


 まさかそれが自分のものだとは思わなかった。


「どうですか?」

「………」


 俺は思わず黙ってしまった。
 口にするのが何故か躊躇われる。


「斎藤先輩?」


 不安そうに見てくる雪村に、俺は一言だけ言った。


「……似合っている」


 心の中でははっきり言葉になっているのに、その一言を言うだけに妙に時間がかかったが。


「本当ですか?ありがとうございます」


 心底嬉しそうに笑う彼女の笑顔に、これを彼女にやってよかったと、俺は思った。





 いつか、また何かをお前に送ろう。

 常に傍にあれるものを。






斎藤END
《いつも傍にあるもの》

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