目的の真意

『夕食が終わったら、僕の部屋にきてね、悠日ちゃん』


 夕飯時、右隣りに座っていた沖田からの耳打ちに、悠日は素直に頷いてしまった。

 君に拒否権はないよ、とでも言いたげな翡翠の瞳の無言の脅しのせいもあるかもしれない。


「そんなことしなくても、行かなきゃならないなら、ちゃんと行きますけど……」


 そんなことを呟きながらも、悠日は言われた通り沖田の部屋に来た。
 部屋の中は静かで、ひと気を感じない。


「沖田さん? いらっしゃいますか?」


 障子越しに声をかけるが、返答がない。
 いないのだろうか? と首を傾げていると、ふと背後から影が差した。


「いらっしゃい、悠日ちゃん」

「お、沖田さん!?」


 肩を捕まれ、最初に視界に入ったのは媚茶の髪。ついで楽しそうに笑う翡翠の瞳。

 突然の登場に、悠日は目を見開いた。薄紫の双眸に移るのは、いたずらに笑う沖田の顔。


「そんなにびっくりした? そんなつもりはなかったんだけどなー」


 そう口にしつつも、沖田はからかうような瞳で悠日を見下ろしている。

 そんな沖田の様子に、悠日は困った表情で彼を見上げた。


「あの、気配を消して急に後ろから呼び掛けないでください。心臓に悪いです」

「いいじゃない、別に。ほら、入って入って」


 悠日の言を半ば無視し、障子を開けて悠日の背を押した沖田は部屋の奥にある机の前に座った。


「ほら、悠日ちゃんもここに座りなよ」


 にこやかに、沖田は悠日に座る位置を指示する。

 ――しかし……。


「……慎んでご遠慮申し上げます」


 彼が指し示したのは、自身の膝の上。全く意図が掴めない。


「内緒話だから、あんまり離れてると聞こえちゃうよ。だから、ここ」

「……今度は一体何のたくらみですか?」


 ものすごく何かをたくらんでいそうな笑顔に、悠日は疑うような視線で沖田を見る。

 だが、沖田はそんな視線をものともせず、やだなぁ、と全く不快には見えない笑顔で手元の紙と筆を示した。


「絵でも描こうかなーと思ったんだけど、誰か評価してくれる人がいた方が楽しいでしょ?」

「理由になってません。もう少し真面目に……っ!」

「ごちゃごちゃ言ってても始まらないから、とりあえず座ってよ」


 唐突に手を引かれて、悠日は結局膝の椅子に横向きに座らされた。

 沖田の左腕が小柄な悠日をすっぽりと包み、もはや逃げることも許されない。


「あの、さすがにこれは……」

「恥ずかしい? いいじゃない、誰も見てないんだし」


 そういう問題じゃないです! と反論したかったが、思いの外衝撃を受けてしまったらしく、悠日はごにょごにょと口の中でくぐもった言葉しか出せず、眉を寄せながら現状を受け入れるしかない。

 そんな悠日に笑いかけた沖田は、ほんの少し腕に力を入れると、その分悠日との距離を縮めるのだった。



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