五月晴れの空の下


 ぴちゅぴちゅぴちゅ。

 鳥の鳴き声が木々の間から漏れる。


「ふぅ」


 廊下の掃除を終え、悠日は空を見上げた。
 広がる青空を見ていると、どこか清々しい気分になる。

 体をずっと曲げていたので体を伸ばせば、達成感がこみ上げてきた。

 新選組に世話になり始めて約半年。結構ここにも慣れてきた。


「まさか、こんな長期滞在が許されるとは思わなかったけれど」


 幹部の人達は、刀を持つと怖いと感じることもあるが、日常生活ではあまりそうは感じない。


「……沖田さんはしょっちゅう斬る斬る言っているけど…」

「何? 僕のこと考えて独り言?」

「きゃああっ」


 唐突に上から覗き込まれて、悠日は悲鳴をあげた。
 にやにやとした笑顔が目の前にあり、はっきりいって心臓に悪い。


「君、一体僕のことなんだと思ってるわけ? 悲鳴あげられるようなことした覚えはないんだけどなぁ」

「人が考え事をしている時にわざわざ気配を消して近づいてくる沖田さんにも非はあると思います!」


 そこまで口にして、悠日ははっとして思わず謝った。


「す、すみません!」

「別に僕は気にしないけど? 土方さんじゃあるまいし」


 土方だったら眉を寄せてすごく不機嫌そうな顔をするだろう。
 それは容易に想像がつくのだが……。

 悠日はそれにどう反応すればいいのか分からない。

 というより、背が頭一つ分ほど違うので、上から見下ろされたら至近距離なのだ。叫ばない方がおかしい気もする。

 そう文句を胸中でつぶやきながら、悠日は、面白そうに笑う沖田に対し困ったように眉を寄せた。

 だが、そんな悠日を気にも留めず、沖田は問う。


「それで、君、廊下掃除は終わったの?」

「あ、はい。あとはこの桶と雑巾を片付けるだけです。何のご用件でしょう?」


 それに、沖田がうん、と頷いてにこにこ笑った。


「左之さんが団子買ってきてくれたんだ。悠日ちゃん捜してこいって言われてさ」

「そうだったんですか……。じゃあすぐ片付けてきますね」


 そう言って、悠日は急いで片付けに入った。





















 沖田は、悠日の片付けが済むまで待っていてくれた。


「すみません、お待たせしました」

「別にいいよ、謝らなくても。じゃ、行こうか」

「はい」


 さっさと方向転換してしまう沖田を悠日は駆け足で追い掛ける。
 彼は背が高いため、歩く早さも速い。半ば駆け足でないとついていけないのである。

 しばらく歩けば、縁に腰掛けた面々の姿が見えた。


「あ、沖田さん、悠日ちゃん」

「来たな。総司、ご苦労さん」

「皆さん、お待たせしました」


 どうやらまだ食べていないらしかった。悠日達が来るのを待っていたようだ。


「あれ、新八さんはどうしたのさ?」

「あいつなら運悪く源さんに捕まってるよ」

「あはは、災難だなぁ。なんかちょっと可哀相だね」


 全然可哀相に思っているように聞こえない沖田の言葉に、悠日は千鶴と一緒に苦笑した。


「ま、いいんじゃねえのか? とりあえず食おうぜ」


 ほらここ座れ、と原田に促されて、悠日は千鶴と原田の間に座った。

 沖田は、なにか面白いことを思い付いたようにどこかに行ってしまう。


「……沖田さん、何しに行ったんでしょう……」

「あいつのことは気にすんな、悠日。多分すぐ戻ってくるからよ」


 原田の言葉に、悠日は首を傾げつつ頷いた。そして、その場にいない面々に気づき、悠日は隣の千鶴に尋ねた。


「平助君と土方さんは?」

「平助君はすぐ戻ってくると思うよ。土方さんはまだお仕事してるみたい。だから、さっき平助君と一緒に呼びに行っても『勝手にやってろ』って……」


 何故あえて千鶴にも土方を呼びに行かせたのかと悠日は思ったが、どう突っ込んだものか悩んで結局何も口にせずに終わった。


「ほら、食べろって。早く取らねぇと総司に食われちまうぞ」

「沖田さん……甘いものがお好きなんですか?」

「ああ。戻ってくる前に自分の分を確保しておくのが賢明だ。今のうちに食しておくといい」



 千鶴の横で静かに茶を飲んでいた斎藤が、やはり静かにそう言った。



<続く>→

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