節分といえば……

 新選組にいるようになってからどれだけたっただろう。
 そう考えてため息をついた時だった。


「悠日ちゃん」


 突然部屋を訪問してきた沖田に、悠日は目を丸くしつつ首を傾げた。


「今日が何の日か知ってる?」

「……えっと……節分、ですよね」


 それがどうかしたんですかと、再び首を傾げれば、沖田はとても楽しそうな笑みを浮かべた。


「うん。だから、鬼は外、だよね?」


 彼が言いたいことを何となく察した悠日は、少し顔をひきつらせながら笑顔を向けた。


「……つまり……」

「鬼副長を外に出す日でしょ?」


 そう口にして、沖田はきらきらした笑顔を向ける。
 確かに、「彼」は「鬼」副長だ。だが……。


「何をたくらんでいるのかは知りたくもないですが……また怒られますよ」

「別に僕は気にしないし。ね、面白いこと考えたんだけど、付き合ってくれる?」


 ……ろくでも無いことに巻き込まれそうだ。
 そう思って後ずさると、沖田はその腕を掴んだ。


「付き合ってくれないと、斬っちゃうよ?」


 ただの脅しなのは分かる。しかし、実際に実行されたときが怖い。
 どうしよう、と目を泳がせていると、沖田は急に笑い出した。


「な、なんですか!」

「君って、本当に面白いよね。安心しなよ。ただ、ちょっと手伝ってくれればいいだけだからさ」


 何をどう手伝えというのだろう。
 そう考えてから、悠日ははたと思い当たった。
 節分といえば豆まきだ。

 ――と、すると。


「豆だったら土間にありますので、井上さんの雷を受けてもいいならどうぞご自由に」

「何、悠日ちゃん。土方さんに豆投げたいの? いいよ、僕はそれでも。それはそれで面白そうだし」

「違います! ……沖田さん、豆まきじゃなかったら何するつもりですか?」


 土方さんを外に出すということは、追い出すと言うことではないのだろうか。
 そう思って沖田を見上げた悠日だが、その答えは全く異なっていた。


「豊玉発句集を読み上げようと思って」

「参加するつもりはありませんけど、どういう繋がりでそうなるんですか」


 脱力しそうになって踏みとどまった悠日は、それはあとのお楽しみだよ、と沖田が笑ったのに肩を落とした。


「悠日ちゃんは土方さん引き寄せといてね。その間に拾ってくるから」


 それは盗み出してくるの間違いではなかろうか。
 そもそも参加すると承諾した覚えはない。
 そう口にしかけたが、それは沖田に止められた。


「それじゃあ、お願いね」

「え!? ちょっ…沖田さん!」





<続く>→

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