五月晴れの空の下
待つこと少し。
藤堂が戻ってきた。
「あれ、悠日、いつの間に来たんだよ……ってもう食ってるし!」
「あ、ごめんね、先に食べちゃってて…」
千鶴と悠日は申し訳なさそうに謝った。
「あ、これ、平助君の分ね」
「お、ありがと。……よかったー、総司に全部食われてたらどうしようかと思ったぜ」
一応藤堂の分も確保してあった悠日に、ほっとしたように彼は礼を言った。
原田の傍の縁の上に座って団子を食べはじめる。
「あれ、それ誰の?」
「新八と土方さんの分だとよ。近藤さんらにはもうあげて来たっつったら、千鶴と悠日が二人にも残しておかないと可哀相だってな」
苦笑気味にいう原田に、どうしてそんな顔をされなきゃならないのかと二人は顔を見合わせて首を傾げた。
その時、背後に影が差して悠日は思わず振り返る。
「はい、おまたせ」
沖田だった。早速団子を手に取って、すぐに一本食してしまう。かなりの早業だ。
「総司、もう少し味わって食ったらどうだ?」
「ちゃんと味わってますよ。ね、二人とも、これに興味ない?」
悠日と千鶴の頭上から出されたのは、冊子だった。
「『豊玉発句集』……?」
異口同音に口にしながら、二人は首を傾げた。
誰だろう、この『豊玉』という人は。
「ね、気にならない?」
どう見てもいたずら心が見える微笑みに、千鶴と悠日は首を振った。
「え、遠慮しておきます」
「何故かは分かりませんけど、嫌な予感がしますから……」
原田と藤堂が少し微妙な顔をしていたので、おそらくなにか企んでいるのだ。
「うん、まあいいけどね。僕は勝手にやってるから。楽しみにしてなよ、面白いことになるからさ」
そう言って、沖田が大きな声で中身を読みはじめた。
「しれば迷い〜しらねば迷わぬ恋のみ……」
「こらてめぇ総司! 人の部屋にのうのうと入ってきて、適当に話して出てったと思ったらそれ持ってさっさと出てくたぁどういう了見だ!?」
鬼の形相の土方がどたどたと走ってきた。
「ね、面白いことになったでしょ?」
そう言いつつ沖田はその場を走り去った。
もちろん句集は依然彼の手の中だ。
「待ちやがれ! 毎度毎度それを持ち出して何がしてぇんだてめえは!」
悠日達の後ろを風が走り去る。
「……あの……?」
去ってから思わず指で指すと、頭をかきながら説明しにくそうに藤堂が言った。
「まあ、なんつーか……日常茶飯事?」
「あいつも飽きねぇよな。お、斎藤、随分懐かれてんじゃねぇか」
原田の言葉にふと斎藤の方を見ると、肩に緑の羽の鳥が二羽留まっていた。
「わ、可愛い」
ぴちゅぴちゅと可愛らしい声で鳴きながら、斎藤の肩で大人しくしていた。
「……ていうか一君、鳥がきても微動だにしないってのもどうよ……」
「鳥ごときで驚いていては隊務に万全に望めぬ。何事にも同じぬ心が……」
「あー、もういいって。……あ、戻ってきた」
激しい足音、再来。
「もらってくね、お団子」
「沖田さん、それは土方さんの団子で……」
「気にしない気にしない」
一気に三本取った沖田は、再び走り去ろうとした。――が。
「総司! いい加減読み上げんのはやめやがれ!」
沖田の腕を捕まえ、いつになく慌てた表情の土方。
確かに、普段見られない貴重な表情だが…。
これはこれで何かが違う気がする。
悠日はそう思うしかなく、千鶴とともに団子を口にしながら上目使いでその様子を見ていた。
隣に座る原田も、茶を飲みながら同様に見上げる。
「ははっ。土方さん必死だなー」
藤堂は楽しそうにしながらそれを見ている。
斎藤は斎藤でそれに動じず茶をすする。肩には依然、二羽の小鳥。
「嫌ですよ。そんなに返してほしかったら自力で頑張って取り戻してください」
必死で句集に手を伸ばす土方に、さも楽しげに沖田は言った。
「春の草〜五色までは〜覚えけり〜」
再び走り去る沖田と土方。
台風一過とでも言うべきか。
「……まあ、こんな日常も……いいの……かな?」
「……いいんじゃないかな?」
悠日と千鶴は苦笑しながらそう言った。
五月晴れの空の下、少女を巻き込む春嵐は、疾く過ぎて行くのだった――。
<終わり>
*あとがき*
薄桜鬼本編のコンプ画で書いてみました。
5月は端午くらいしか思い付かず、かといって薄桜鬼で端午の節句は書きづらかったので題名だけでも…
前回に引き続きネタが発句集なのは気にせんで下さいm(__)m
それと、斎藤さん出番少なくてごめんなさい……
2011.5.30
2012.10.1 修正