学園生活の受難
「あれ、悠日ちゃん、珍しいね、こんな時間に会うなんて」
もしかして寝坊したの? と意地の悪そうな笑みを向ける沖田に、悠日はため息をついた。
確かに寝坊した。それは否定しない。
しかし。
――どうしてこのタイミングでこの人に会うんだろう……。
入学当初からなにかと絡んでくる一学年上の彼に、悠日はどう応対すべきか迷っていた。
「今は沖田先輩の相手をしている暇はないんです、失礼します!」
質問には答えずそう告げて去ろうとした時、沖田が少しムッとした表情をし、悠日の進行方向に立ち塞がった。
反射的にブレーキをかけた悠日にほくそ笑むと、前籠に指をかけて悠日を見下ろしながら楽しげに言う。
「悠日ちゃん、いいものに乗ってるね」
「……貸しませんよ? 私も遅刻するかしないかの瀬戸際なんです、どいてください」
少し睨むように沖田を見上げるが、沖田は
堪えた様子もなくニヤリと笑った。
「別に僕一人で乗るつもりはないよ。とりあえず下りてくれる?」
「……なぜですか」
「どうしても。――そうしないと、二人とも一緒に遅刻だよ、いいの?」
いいはずがない。
沖田の何か含みのある言葉に嫌な予感を覚えつつ、ここで素直に応じないと何が起きるか分からない黒い笑顔を向けられたため、悠日は言われた通り自転車から下りた。
いい子だね、と悠日の頭を撫でると、沖田は自転車にまたがった。
前籠に自身の鞄を入れると、沖田は傍らに立っている悠日に言う。
「ほら、悠日ちゃんも乗りなよ」
とんとんと後ろの荷台を叩かれ、悠日は困惑した表情で眉を寄せた。
「あの、これは交通ルール違反……」
「細かいことは気にしてないで、ほら、乗って」
半ば強引に荷台に横座りさせられると、腕を沖田の前に回させられた。
何の心の準備もないまま発進したそれに、悠日は思わず回した腕に力を込める。
「ちゃんと掴まってないと落としちゃうかもしれないからね〜」
怪我しても知らないよ、と脅しなのか注意なのか分からない声音で言われ、悠日は心中で呟いた。
――そもそも、これに私は承諾をしたわけではないんですが……?
かといって、二人乗りなど不安定なことこの上ない。
バランスの取り方など分からないから、とりあえず目の前の大きな背にしがみつく以外、悠日には出来なかった。