学園生活の受難
少しだけ夏の気配を帯びた爽やかな風が吹き抜ける。
差し込む木漏れ日は柔らかく、朝を喜んでいるかのように揺れた。
塀の上でまどろむ猫が大きくあくびをし、なんとものどかな朝だ。
そんな木の下を、一台の自転車が駆け抜けた。
猫が飛び起きて塀の内側の茂みに飛び込むが、それはそのようなことを気にする事なく、風のように去っていく。
猫はおそるおそる出てきて、それが去った方向をしばし見ていたが、何ごともなかったかのように再びまどろみ始める。
そんなことがあったなどと知らない、猫の安眠妨害の張本人達は、結構なスピードで道を走っていく。
「はははは速いです速いです速いです!!」
風の一部となりながら、目の前の御仁の背にしがみつき、少女は叫んだ。
周りの景色が次々と移り変わり、時折すれ違う人が目を丸くして二人を振り返る。
スピードの出たそれにより、毛先に少し癖のある下ろしたままの少女の髪が翻った。
「先輩! お願いですからスピード落としてください!」
「大丈夫だよ。それより悠日ちゃん、しっかり捕まっててね」
坂に差し掛かり、そこを相当なスピードで下りていく。
思わずそれまで以上の力で目の前の人にしがみつく。
「きゃあああぁぁぁぁ!!」
朝の清々しい空気をものともしない悲鳴が、青い空に響き渡った。