想うが故の思い
沖田が屯所についてしばらくしてから、藤堂と悠日が帰ってきた。
小さな紙包みを片手にした藤堂は、少し後ろを歩く悠日を満面の笑顔で振り返った。
「ありがとな、悠日!」
「ううん。こっちこそ、誘ってくれてありがとう、平助君。私も楽しかったから」
とても嬉しそうに藤堂に返した悠日に、藤堂が不安そうな顔をして少し声をひそめて話しはじめる。
「……でさ、まだ帰って来てないよな……?」
「永倉さんの声が聞こえない辺り、まだだと思うよ。……それじゃあ、頑張ってね、平助君」
ひらひらと手を振って踵を返した悠日に、ちょっと、と平助が先ほどより不安そうな面持ちで悠日のたもとを掴んだ。
まるで『捨てないで』とでも言いたげな犬のような雰囲気に、悠日ははぁとため息をつく。
「なに、平助君?」
「頑張れって言われてもさ……どう頑張れって?」
「どうって言われても……だって平助君、ごもごもしそうだし」
悠日の言葉に否定できない藤堂は、うっとつまってうなだれた。
「なんつーかさ……俺、本当大丈夫かな……」
右手の紙包みを一瞥し、自信なくなってきたと肩を落とす。
そんな藤堂に、普段通りでいけば全く問題ないのに、と思いつつ、悠日はどう声をかけていいか分からず苦笑するしかない。
奇妙な沈黙が下りた。
あとは彼自身に任せるしかない悠日は、どうしたものかと目を泳がせた。
しばらくしてから、屯所に少し近い場所から賑やかしい声が聞こえてきたのを聞き取って、悠日はふとそちらに目を向ける。
永倉の声が特に聞こえ、少し解放された気分で悠日は藤堂に告げる。
「……今度こそ本当だけど、帰ってきたよ、巡察の人達。じゃあ邪魔しても悪いし、私は部屋に戻るね」
「いや、だからさ、邪魔とかそういうのじゃなくて……悠日〜」
少し情けない声を出して悠日を引き止めようとする藤堂を黙殺し、悠日はまっすぐあてがえられた部屋へ戻ろうと縁を歩いて玄関口を離れた。
「あんな様子で平助君、大丈夫かなぁ……」
ものすごく心配になってきた悠日は、一度玄関先を振り向く。しかし既に角を曲がってしまっているので視界に入らない。
――まあ、何とかなるかな。
そう心中で呟きながら少し疲れた表情で息をつくと、悠日はふいに腕を引っ張られ、ある一室に引っ張り込まれた。