想うが故の思い
こちら、監視――ではなく尾行中の沖田。
髪飾りを売る店でなぜか仲睦まじそうにしている二人に、彼の苛々は結構たまっていた。
時折嬉しそうに笑う悠日がなんだか恨めしいが、それ以上に彼女とともにいる藤堂には恨めしい以上に妬ましいとでも言うべき感情を持つ。
それが『嫉妬』だということを沖田も分かっているが、抑えられないものは仕方ないと半ば開き直る。
沖田周辺にだけ真冬の風が吹いているかのような冷ややかさに、誰ひとり彼に目を向けようとはしない。
相変わらず気配を消しているためでもあるだろう。
だが、そんなことは全く気にせず、二人の会話が気になって仕方がない沖田はそちらに集中して聞き耳を立てた。
二人との距離は三間(約六メートル)あるので会話は聞き取りにくいが、内容は何となく分かる。やはり何か贈り物の相談をしているようだ。
時折悩ましげに頭を抱える藤堂に奇妙な視線を向けながら、ふいにこちらを見た悠日に沖田は眉を寄せた。
まさか気づかれたとは思えないが、しばらく気配だけで様子を窺う。
――悠日ちゃんが僕に気づくとは思えないけどね。あの子意外に鈍感だし。
抜けてもいるししっかりもしているという矛盾した性格の持ち主だが、どこかひょんな時に意外な一面が出てくるので面白い。
ちなみに、それは沖田が悠日にちょっかいを出すときに出てくるので、それがやめられなかったりする。
などと考えながら様子を探るが、しばらくして何の反応もないのを訝しんだ沖田は再び二人のいる店を見る。
相変わらず品物と向き合う藤堂と首を傾げて何かを指し示している悠日の姿がそこにあった。
どうやら気づいてはいないようだ。
……というより、何やら必死な様子で売り物を物色しているとはいえ、藤堂が気づかないのは甚だ問題だろう。
それを苦笑しながら見る悠日に、はあ、と沖田はため息をついた。
どこか淋しそうに笑って空を仰ぐ。
「僕、一体何やってるんだろうね……」
いつもならさりげなく出ていって平助をからかいに行くのに、と思いながら、沖田は踵を返した。
どうせ訊くなら帰ってきてからの方が訊きやすい、と屯所方向に足を向けた。
「詳しいことは、屯所に帰ってきた君に訊くことにするよ、悠日ちゃん」
先ほどの淋しそうな笑顔とは打って変わってどこか楽しげな彼の言葉は、風に乗って消えた。