想うが故の思い
さて、街中へ出てきた藤堂と悠日が物色しているのは髪飾りを売っている店だった。
店主は物珍しい客に目を丸くしながらも特に何も言わずに二人の様子を見ている。
新選組だということを知っているからかも知れないが、二人はそのことに気づかない風情で店内を物色する。
少し茶色がかった白い布の上には、銀色の簪や赤い鹿子の布、白い紐など様々な物がある。
「この間は簪かなーとか思ったんだけどさ、今すぐ使えねえってことに買ってから気づいたんだよ……」
並ぶ簪の数々を見ながら、はぁ、とため息をついた藤堂に、悠日は苦笑するほかない。
髪を結う飾り紐に手をかけながら、悠日は少しあきらめを含んだ声音で言う。
「まあ、確かに使う機会ないしね。……でも、我が儘も言ってられないから」
妥協にも聞こえる悠日の言葉に、やっぱり男の恰好はやだよなぁと思いながら、藤堂はだからさ、と口を開く。
「そうするとさぁ、使ってもらえそうなのあげたいじゃんか。男の恰好してても問題なさそうなやつ」
「うん、だから髪紐とかどう? ってさっきから言ってるんだけど……まだ迷ってる?」
こんなのとかあるからいいと思うのに、と悠日が手にしているのは赤い結い紐だった。
おそらく男物だろうが、少し
洒落た感じで女の子がつけても問題はなさそうな無難な物を選んでみる。
だが、男物ということが引っ掛かっているのか、あー、とものすごく悩ましげに藤堂は頭を抱えた。
ある意味奇妙な光景に通行人が見て行くが、悠日が目を向けるとすっと視線を反らしてそそくさと去っていく。
――おそらく『私は何も見てません』という主張なのだろうと思う。
ちなみに、藤堂は幸せなことにそれに気づいてはいなかった。
「…………ほんっとにそれで大丈夫か?」
「私だったら、ね。いつでも使えそうな物って言ったら、他には手ぬぐいとかしか思い付かないけど……いっそのこと着物とかになっちゃわない?」
「……着物に手を出せるだけの金がないんだよなぁ、俺」
一応その線も考えていたらしいが、あきらめたのは明白だ。
何かと永倉達と島原に行っていれば支出が多いのも頷けるが、これ以上追い撃ちをかけるのもどうかと思い、口にすることはやめた。
とは言え、いつまでも悩んでいては埒があかない。
ならどうするのかと悠日はひたすらため息をつく。
早くしないと見つかってしまってすべてが水の泡だ。
そう考えてから、その心配をしているのが悠日だけではないことを思い出し、悠日は唐突に少し遠くを見はるかすようにして言った。
「……あ、原田さん達の組が来たよ」
「え!? ちょ、待てよ! 確か今……」
心底慌てた表情で藤堂は悠日が見ている方向に目をやる。
が。
「……いないじゃん」
「うん、嘘だよ。来てないから大丈夫」
にこにこと笑う悠日に、藤堂は盛大なため息をついた。
「悠日、頼むから心臓に悪い冗談はやめてって。俺、今すっげー冷や汗かいてる……」
「だって、なかなか決めようとしないから。それに、ここは巡察範囲でしょう? 早くしないと鉢合わせちゃうよ、平助君」
うう、と唸って藤堂はがっくりと肩を落とした。
「……色のお勧めって、あるか?」
「赤かな。少し朱色がかってる方が可愛いと思う」
ようやく腹をくくったらしい藤堂に、悠日はほっとしたように笑った。
彼の意図を知っているので、悠日はそれ以上の口出しはしない。
紐にもいろいろ種類があるようで、あーでもないこーでもないと少し悩んでいる風情だ。
しばらく考え込んで赤い紐の中からいろいろ物色し、彼が選んだのは紐の先の結び目部分に小さな珠がついている紐だった。
確かにあれなら似合いそうだ。
「平助君、決まった?」
「なんとかな……。悠日どう思う?」
「いいと思うよ。似合いそう」
世辞ではない本音に、藤堂もほっとしたように笑う。
そうして約半刻(一時間)の買い物を済ませた二人は、そのまま屯所に少し急ぐ風情で帰っていった。