序の花 藪宣草
ざしゅっと、肉を切る音が響き渡った。
浅葱の羽織りに刀。
その刀が、白髪の男の胸に突き刺さっていた。
「……また目撃者が出ましたよ」
その男を刺した青年が、その向こうに倒れている少女を見て言った。その青年が少女に近づき、その顔をまじまじと見つめる。
一瞬眉をひそめてから、彼は共に来た二人に視線を投じる。
「はぁ……勘弁してくれ……」
「しかも今度はバッチリ女だって分かるぜ? 着てんの女物の着物だし」
そういう問題じゃねぇだろ……と、紫の髪を後ろで結った男が呟いた。
「また連れ帰るんですか? 厄介な子、もう一人いるっていうのに、物好きですね土方さん」
茶色の髪を髷に結った青年が、半分呆れたように言う。
だか、その瞳にあるのは、それとは違う異なる感情。
困惑、と言ってもいいかもしれない。
「けどさ、女の子だぜ?」
「この間も言ったが、男女は関係ねぇ。だが、取りあえず連れ帰る。山崎、これの処理を頼む」
「御意」
死んだ男の処理への指示に黒装束の青年が応じ、死体をいずこかへ持ち去っていく。
「帰るぞ。そいつをさっさと連れて来い」
踵を返す土方に、血糊の付いた刀から血を振り飛ばしながら青年は言った。
「やれやれ。結局そうするんですか。何かあっても知りませんよ、僕」
そしてたったっと歩いて行く二人に、残りの一人が声をかける。
「おーい、こいつ、誰が連れ帰るの?」
「平助でいいんじゃない? あ、もしかして出来ないとか? そうだね、背もそう変わらないし」
「うるせぇよ!」
「うるせぇのはてめぇもだ平助。おい総司、お前が連れて来い」
「えー、僕ですか? 連れ帰るって言ったのは土方さんなんですから、土方さんが連れていけばいいじゃないですか。それに、僕が連れてくと血みどろになっちゃいますよ、あの子」
しばらく押し問答が続く中、結局その問答に参加していなかった平助に矛先が向いたのだった――。
2011.2.6
2012.9.1 修正