第六花 松
太陽が中天に差し掛かる。木々の隙間から流れる雲を眺めながら、総司は横になって風を感じていた。
昨日の約束の時刻よりずっと早く、総司は約束の場所へ来ていた。
手の中の花を模した紐飾りを見上げながら、彼は眉を寄せる。
君について知りたいのだと言ったとき、彼女は怯えた表情をしていた。総司に知られる、と言うことではなく、もっと大きな何かに。
「……まあ、その辺りのことが聞きたいから、行ったんだけどね」
ここにきても暇だったし、事実興味があった。ほぼ毎日会っていたから、会えない日と言うのは、その日一日が空疎なものに感じてしまったのだ。
彼女に会う前は、そうでもなかったのに。剣術の稽古ができればそれで満足だったのに。
だがそれが嫌だと感じていないことに苦笑し、総司は起き上がった。
「そろそろ来るかな」
宿の方へ行けば、早く会えるだろうか。
そんなことを考えて立ち上がると、悠がいつも通っているらしい道を歩き出した。
この姿を見られたら、なんと言われるだろうか。
桜色の髪に手をやり、悠日は少し不安げに瞼を伏せた。
【人】とは異なる色合い。自身と異なる容姿を、人々は恐れる。
異能を持っているとなるとなおさらだ。
約束の場所に来ているだろう総司のことを考えると、その姿のままそこへ行くのはどうしてもはばかられた。
昔、世話役という名の目付の目を盗み、こっそり宇治の里から降りたとき、その姿を見た子ども達に『化け物』と呼ばれたことを思い出す。
同じ言葉を向けられるのを考えると、どうしてもその姿で行くことは避けたい
宿からの道の途中に降り立つと、悠日は目を閉じて自身の力を身の内に封じる。
ほぅ、と息をつき、一歩踏み出そうとした瞬間茂みが音を鳴らし、びくりと肩を震わせた。
おそるおそる振り返ると、そこには目を見張った総司の姿がある。
「……悠ちゃん?」
驚愕なのか恐怖なのか、悠日をじっと見つめる総司を見て、悠日はじりじりと後ずさった。
「……っ!」
思わず体を翻して駆け出した。
見られた。……人に安易に見せてはならないと言われた、その姿を。
周りの音は何も聞こえない。ただ、後悔ばかりが渦を巻く。
何も考えずに駆け出したその体が向かったのは、総司との約束の場所。
それに気づいたときに一瞬立ち止まったのを見計らって、後ろから腕を掴まれた。