序の花 藪宣草

 『それ』を見たのは、ほんの少し前。

 どこか分からない場所で目を覚ましたと思ったその瞬間、見てしまったもの。



『や、やめろ! やめ……っぎゃあ!』


 目に留まったのは、血の赤と白い髪。

 それを理解した瞬間、彼女は口元を押さえていた。


『ひ……っ!』



 反射的に、そこで声を上げたのがまずかった。


 ゆらりと振り向いたそれは、少女の姿を見た瞬間、歓喜の雄叫びをあげた。



『ひゃははははは!』



 本能的に、逃げ出していた。


 何故その場に居合わせたのかさえ分からなかったが、逃げなければ、殺される。



 恐怖で動かなかった足を叱咤して、逃げて逃げて――。



「ひひひひ……」



 今また目の前に、それがいる。

 目の前に迫っている恐怖に、体はかたかたと震えることしかしてくれない。



「ひゃははははは!」



 振り上げられた刀を見た瞬間、少女の意識は暗闇の中に消えた。




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