第五花 金盞花
千鶴の頼みを聞き入れた近藤は、今度は悠日を振り返った。
「霞原君は、何かあるかな?」
「私は……」
悠日は、少し考えてふるふると首を振った。
「本当に、構いません。ですから、どうか気にしないで下さい」
自身を守る術が欲しいのは悠日も同じだが、剣を持ったこともない自分に何が出来るとも思えない。――それに、千鶴と違ってここに温情で置いてもらっている自分には、どうしても頼み事というのは気が引けてしまう。
おそらく近藤ならば遠慮は無用だと言ってくれることが分かっていても、だ。
「私は席を外しますね。千鶴ちゃん、頑張ってね」
「あ、うん。ありがとう、悠日ちゃん」
笑顔を向ける千鶴に、悠日も笑顔で手を振って、近藤に小さく頭を下げると悠日は踵を返した。
悠日の姿が見えなくなってから、近藤は千鶴に尋ねた。
「雪村君、霞原君は本当に大丈夫なのか? ここ最近、顔色が優れないように思うんだが……」
「今日は特に上の空なことがあって、私も心配なんですが……。でも、悠日ちゃん、大丈夫の一点張りなんです。気にしていなければ、いつも通りなんですけど……」
心配げに眉を寄せる千鶴に、そうか、と近藤がため息をついた。
「体調が悪いの隠してるだけかもしれないので、なるべく気にするようにはします」
「ああ、よろしく頼む。……では、稽古の準備をしてきてくれるか、雪村君?」
「はい!」
意気揚々と返事を返した千鶴に、近藤は『師』の笑顔で頷いた。