第三花 花菖蒲

 気がついた時、悠日は布団の中で寝ていた。


「あ、気がついた?」


 悠日が目を開けたのを見て、ほっとした様子で千鶴が覗き込む。


「千鶴ちゃん……? ここは、屯所……?」

「うん、そう。びっくりしたよ。二階に上がったら、沖田さんと折り重なって悠日ちゃんも倒れてたから…」


 その時のことを思い出して、悠日はまた頭が少し疼き顔をしかめた。

 起き上がればさらに痛みが増す。

 額を抱える悠日の背に千鶴が手を沿え、起きあがるのを手伝う。
 不安そうに眉を寄せながら、彼女は悠日に尋ねる。


「悠日ちゃん、大丈夫? もしかして、どこか怪我でも……」

「ううん、そういうわけではないの、心配しないで。……それより、沖田さんは?」


 血を吐いていた。そして、倒れたのだ。心配でないはずがない。
 心配そうな表情で首を傾げれば、千鶴が安心させるように笑った。


「沖田さんなら、悠日ちゃんより先に目を覚ましてる。ただ、やっぱり本調子じゃないみたいで、今は安静にしてるよ」


 その言葉にそう、と悠日はほっとした表情を見せるも、すぐに眉を寄せてそのまま目を伏せた。
 その仕草を体調不良からと取った千鶴は、悠日に寝るよう促した。


「悠日ちゃんも本調子じゃないなら、もう少し寝てたほうがいいよ。私は取り合えず、土方さん達に悠日ちゃんが目を覚ましたこと、言いにいってくるね」


 そう言うと、千鶴はあわただしく部屋を出て行った。

 再び横になり、悠日は目を閉じる。


「……あれは……………」


 ずきずきする頭を押さえながら、それでも悠日は想いを馳せる。



 思い出したのは、森深き山。
 澄んだ川のせせらぎ。
 森の木々の小さな葉音。
 鳥の可愛らしい鳴き声。




 そうだ、自分は――。




『……様! こち……へ――!』

『いや! 母様! 母様!』



 伸ばした手は届かなかった。
 広がる血溜まりは、清らかな清流を赤に染め上げる。





 そして、池田屋で会った人物。



 あの人物を、自分は知っている。


『貴様、『菖蒲』か…』



 そう言った彼は。




「風間家の……跡継ぎの……」


 それだけ呟くと、悠日はそのまま眠りの淵へ落ちていった。



 天井裏で、何かが動いたのを感じながら――。





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