第二花 露草
その日の夜。
昼のことを思い出すと眠れず、悠日は目を閉じるも何度か寝返りを打っては目を開ける、を繰り返していた。
あれからまた夕飯を食べはじめたが、山南の話を聞いた後だからか、重苦しい雰囲気に砂を噛むような心地で食べ終え、早々に部屋に戻ってきたのだ。
それから既に数刻が経ち、現在布団にもぐっているのだが、さっきのことが気になって寝付けない。
小さくため息を付くと、不意に隣で大きな衣擦れの音が聞こえた。
「ああ、もう!」
突然発された言葉に、悠日の体がびくりと跳ねる。
先ほどより大きな布団と寝巻の衣擦れの音が響いたと思えば、がばりと隣で起きあがった気配がする。
寝返りを打ってそちらを向けば、千鶴が起きあがっていた。
「……千鶴ちゃん? どうかしたの?」
「あ、ごめんね。起こしちゃった?」
「ううん、寝付けなくて起きていたから大丈夫。……それよりやっぱり、気になってるの?」
そっと尋ねた悠日に、千鶴はもう一度横になって悠日の方に顔を向け、苦笑した。
「忘れなきゃいけないのは分かるんだけど…」
「かといって、忘れないと今度は自分の身も危ういものね……」
斎藤の言葉と皆の反応を考えれば、そこまで容易にたどり着ける。
下手なことを知れば殺されてしまう可能性がある以上、これ以上知らないほうが身のためなのだ。
「……考えないようにしよう? もし余計なこと知って最悪殺されるようなことになったら、お父様を探すどころじゃなくなるもの」
「……そう、だね。うん、悠日ちゃんの言う通りだよね」
うん、と悠日は笑顔で頷いた。
「じゃあ、お休みなさい」
「うん、お休みなさい」
そう言って二人は目を閉じる。
しんしんと寒さが身に染みる冬の夜。ゆっくりと意識を眠りの中に落としていく。
藤堂が言った『新撰組』とは何なのか。
沖田が口にした『薬』とは何なのか。
新選組の秘密に触れそうで触れない位置にいる二人が、その真実にたどり着くのはもう少し後の話――。
<第二花 終>
2011.3.18
2012.9.15 修正