第二花 露草
朝日が差し込む部屋の中、少女達は今日の支度をする。
「じゃあ、今日もよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げた悠日に、千鶴も笑顔で返した。
「うん。じゃ、行こう!」
そして部屋を出た悠日と千鶴は、二人仲良くある場所へ向かうのだった。
新選組に世話になりはじめること一週間と少し。
ただ置いてもらうことが何だか申し訳なく、先日二人で近藤に頼みに行った。
雑用をしようにも、勝手に部屋を出てうろうろすれば怒られるのは必至。もちろん怒られたいと思うはずがないので、とりあえず許可だけでももらわないと、と両人の意見が一致したからだった。
なお、現在土方と山南が大坂に出張しており、現在屯所に不在であるため、許可を仰ぐのは近藤だけで事足りたらしい。
『だがなぁ……君達は大切なお客人だ。雑用などさせるわけには……』
そう言って悩み顔をする近藤に、二人は控えめに懇願する。
『でも、ただ置いていただくというのも心苦しくて…』
『もしよろしければ、お願いします』
千鶴と悠日二人に頼まれてはどうしようもなかったのか、近藤も「じゃあよろしく頼む」と言ってくれた。
それ以来、ちょっとした仕事を見つけては各々、もしくは二人一緒に雑用を行っていた。
だが、その途中ある重要な問題が浮上し、現在はそれを【克服中】だったりする――。
「おはようございます」
ひょっこり勝手場に顔を出した少女二人に、原田と永倉の二人がおう、と返してくれた。
ちょうど火を起こしているところのようだから、まだ準備を始めたばかりなのだろう。
「火が起こるまで時間がかかるからな、それまでなら時間が空くからそっちでやってろ」
「ありがとうございます」
原田の言葉に二人は微笑んで礼を言った。
「じゃあ、今日も頑張ってな、悠日ちゃんとその先生の千鶴ちゃん」
「はい」
永倉の言葉に二人は頷いて、なるべく邪魔にならない場所でそれを始めた。
浮上した問題というのは、悠日が料理をすることが出来なかったということだった。
やったことがないのか、それとも覚えていないだけなのか、火の起こし方から包丁の持ち方等々がはちゃめちゃだったのだ。
火を起こすために使う火吹き竹を手にして、何に使うのかと首を傾げていた。
包丁をどこか危なげなく持って危うく指を切りかけたために、何度はらはらさせられたか知れない。
そんな中で救いだったのは、何がどういうものか――野菜の種類やら調味料やらは知っていたことと、試しにやらせてみた味付けがすこぶる上手かったことだろうか。
そのため、悠日はこの新選組においては珍しく味付けの上手い『味付け要員』に回っているのだが、それ以外も出来たほうがいいだろうと原田が提案したのだ。
それ以来、二人は早めに勝手場に来て千鶴が手取り足取り教えていた。
――もちろん、幹部の人達の監視のもとで。
飲み込みも早いので、あと数日もすれば一通りは出来るだろうと思われる。
一昨日火の起こし方を覚えた彼女は、今は包丁の使い方を教わっている真っ最中だ。
ぎこちないながらも野菜を切る姿に、思わず微笑ましい視線を向けてしまう原田達である。
「よーし、火もついた。みそ汁作るぞ。飯もあとは火の調整くらいでいいしな。おーい、悠日、大根切れたか?」
「はい」
何とか時間内に切り終わったことにほっとした表情で悠日は頷いた。
「じゃ、始めるぞ」
それから、新選組隊士らのための朝食作りが始まったのだった。