第十四花 柊

 大坂城にたどりついたときには、すでに新選組のほとんどの面々が集っていた。

 出迎えてくれたのは、先についていた永倉と原田だった。二人の姿を見て、彼らはホッとした様子を見せる。駆け寄ってきた彼らは、少々疲労が見えるものの、大きな怪我も見当たらず千鶴たちも胸をなでおろす。


「平助、千鶴ちゃん! 無事だったんだな、よかったぜ…………って、お前!」


 藤堂と千鶴の後ろに控えるようにしていた牡丹の姿を視界に捉え、永倉達が柄へと手をかける。だが、それを制したのは他でもない千鶴と藤堂だった。


「ま、待ってください! 牡丹さんはここまで、私たちのこと守ってくれてたんです!」

「本当だぜ、新八っつあん。っていうかむしろ俺の立つ瀬がねぇ……」


 千鶴にはっきり言われてしまったこともあり、藤堂は悄然と肩を落とす。守ると豪語した者がさらに別の者に守られていたのだから、彼の中の矜持も多少なりとも傷ついていることがその言葉の端々から分かった。

 それに対し、珍しく好意的な感情を持ちつつあるらしい牡丹は、藤堂に対し慰めともトドメとも取れる言葉を向けた。


「相手は鬼、むしろあれだけ立ち回れただけ合格点では?」

「いや、問題はそこじゃなくてさ……」


 とはいえそれ以上明確な負けの理由も見当たらず、彼はそのまま黙りこくってしまった。話のきりも見えたところで、原田が怪訝そうに牡丹へ尋ねた。


「……悠日はどうした?」

「姫は、お目は覚まされたがまだ満足に動ける状態ではないのでな。姫の手足、目となって動くのが私の仕事だ」

「お前が手足で目、ねぇ」


 何か言いたげな、警戒を隠さない視線を受けて、牡丹は不快そうに眉を寄せる。


「……なんだ?」

「いや、なんでもねぇ。それより、平助と千鶴はともかく、お前はどうするつもりだ、牡丹? このまま一緒に城に入るとか言わねぇだろうな」

「どうするも何もそのつもりだが。……話さなければならないこともあるしな」


 敵と捉えている状況は変わらないのか、永倉も原田もその言葉を受けて再び警戒した。


「この状況でどっちの味方が知れねぇやつを入れらるわけねぇだろ」

「安心しろ。千鶴様がこちら側にいる間、何かをするつもりは毛頭ない。それに……新政府側には私達も返さなければならない忌々しい借りがあるのでな、協力を仰ぎたいというのが本音でもある」


 怯むことなく真っ直ぐな瞳が原田達へ向く。泳ぐことのない瞳と見つめ合うことしばらく、原田が静かに尋ねかけた。


「……本当なんだろうな?」

「鬼は嘘をつかん。……と言っても、お前たちにそれが通用するとは思っていないが」


 それが人に通用するなら牡丹達も苦労はしない。鬼の中の常識が人の常識ではないと、彼らはとうの昔に知っていたからこそ、期待の言葉は向けられることもなかった。


「えっと、それでな、とりあえず土方さんと俺と千鶴で話をしたいって言ってんだけど……」


 なんともピリピリした空気に耐えきれなくなったのか、そもそもここで長話していても埒が明かないと理解しているからなのか、藤堂が二人を制して言葉をかける。もちろん、原田も永倉もそれを快諾できるはずもなく、言葉を濁した。


「その辺は土方さん次第だろ。……とりあえず、入れよ。不審な行動したら――」

「するつもりはないが、肝に銘じておく」


 変わらず敵意が飛び交う空気に、勘弁してくれ、と藤堂が肩を落とし、千鶴がそんな藤堂をねぎらうように苦笑いとともにポンポンとその方を叩いたのだった。

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