第十三花 柘榴

 銃創の深い傷を見て、山崎は戦慄の表情を見せた。
 沖田が何故か羅刹になっていることは藤堂から知らされたが、屯所に着く頃にはいつもの色彩に戻っていたためそんな様子には全く見えない。
 
 羅刹になったならば傷もすぐ癒えるはずだが、羅刹になったにも関わらず傷が消える気配がないから余計だろう。

 とめどなく流れる血は人の怪我より少なく感じる程度だが、それでも多いのだ。

 千鶴は千鶴で、沖田のことと薫のこととで混乱した様子でいたため、ここを離れており、藤堂が傍についている。今はその場に居合わせた面々が誰一人としていない。


「っ……なんでお前まで……総司……」


 なんだかんだと悪態をつかれ、いたずらされたり責められたり、そんな沖田でも、土方にとって特別な相手であることに変わりはなかった。近藤が弟のように可愛がっているのも随分と大きいのだろう。彼にとっても手のかかる弟のようなものだったのだ。

 そんな彼が変若水を手にし、飲み、更にはなぜか羅刹でも癒えない傷をこさえて帰ってきた。

 近藤が狙撃された件からの一連の流れからこうなったのだとすれば、結局全て自分の責任だと、そんなことを考えてしまう。


「ひとまず治療は終わりましたが……」


 予断を許さない状況であることに変わりはないと、山崎の表情が物語っていた。
 傷の痛みでうなされる沖田を見て、土方が難しそうな様子で小さく息をつく。


「ひとまず、こいつも近藤さんと一緒に大坂城へ行かせる。……いま、大坂城には松本先生もいるからな」

「沖田さんも、ですか?」

「いまできる最善の手は、それしかねぇだろ」

「そうですね……」


 反論できる材料もなく、山崎はそう口にすることしかできなかった。


 翌日、近藤と共に、沖田は大坂城へと運ばれたのだった。

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