第一花 野荊

 男装したあと、悠日は結っていた髪を下ろして櫛で梳いていた。腰の辺りまである髪は、座っていると床につくのではないかと思うほどだ。


「わ……やっぱり長いね。髪の毛、どうする? このままだとちょっと長い気もするんだけど…」


 髪を結い上げる女性の髪は、前も後ろも長いのが基本だ。もちろん悠日も例外ではなく、高く結い上げていた時に感じたものより長い。

 男の場合ここまでの長さはいらない。土方も長いと言えば長いが、悠日とは事情も性別も違うため話が違ってくる。


「ちょっと切ったほうがいいかな? でももったいないし……」


 さらりとした、毛先に少しだけ癖のある黒く柔らかい髪は、悠日の背の真ん中よりも長かった。後ろ髪は千鶴のように頭の上で結べばいいとは思うのだが、ぶつぶつと呟きながらやってみた千鶴は眉を寄せた。


「後ろ姿だけだと、色違いの土方さん……?」


 試しに上げてみると、土方と同じような感じになるのだ。額にかかる前髪が彼より少し短めなところがあるし、長さも悠日の方が長いため、その辺りの印象の違いはある為、間違われることはないとは思うが――。

 もう一度下ろしてどうしようねぇと二人で首を傾げていた時、障子の向こうに三つの人影が現れた。


「千鶴に悠日、入るぞ」

「どうぞ」


 異口同音で了承した二人に応じ、三人の男性が入ってきた。

 その瞬間、藤堂と永倉が悠日を見て固まる。


「……誰?」

「どう見ても悠日だろうが」


 振り向いた悠日に、藤堂と永倉が指を指し、それに呆れた原田が続けて言った。

 苦笑していれば、原田はしゃがみこんで悠日に尋ねてくる。


「なんだ? どう結おうか迷ってんのか?」

「はい。千鶴ちゃんみたいに結ったのはいいんですが……」


 千鶴が悠日の髪をつむじ辺りで結いあげてみると……。


「…ぶふっ……すっげー可愛い土方さん」


 長い前髪が真ん中で分かれて垂れているため、前から見ても一見すると土方だ。

 髪の長さや質、色などよく見れば違う部分があるのでもちろん土方と間違うことはないだろうが…。


「この髪型じゃあ、ぼーっとしてると土方さんと間違えられて総司に斬られるんじゃねえか?」

「楽しそうだね。皆で何してるの?」


 冗談半分で永倉が言ったそこに、噂をすればなんとやら、沖田がやってきた。


「おう、総司か。こいつの髪型をどうしようかと思ってな」

「……そうしてると土方さんみたいだね。なんか嫌だなぁ、僕」

「だからどうしようか迷ってんだよ」


 ふーん、と言って沖田も部屋に入ってきた。
 まじまじと見られ、悠日は少し緊張した面持ちで沖田を見る。


「いっそばっさり切ると千鶴と間違えそうだしな……」

「僕はまだそっちのほうがいいんだけど。やだよ、あの人が二人いるみたいで」

「おいおい、土方さんと悠日ちゃんじゃ何もかもが違うだろ」

「でもさー、女の子が髪切るのっていうもなんか可哀相じゃん」


 原田、沖田、永倉、藤堂と口々に話す中、千鶴は一生懸命な顔で悩んでいる。


「むしろ髪を全部下ろしたままって手もあるよな」

「それでいいんじゃね?」

「それじゃあ女と思われてもおかしくないだろ、ある意味。結ってる女が多いからどうなるかは分からねぇが」

「ならどうすんだよ」


 永倉・藤堂・原田が言い合う中、沖田が悠日の後ろに回った。


「それなら後ろでこうやって結べば問題ないんじゃない?」


 貸して、と千鶴と交代した沖田が、悠日の髪を簡単にまとめた。

 櫛と指を器用に使って耳から後ろの横の髪の毛を少しとり、頭の後ろでそれを普通に紐で縛る。
 うなじを覆う髪は下ろしたままだが、それでも全て下ろしてあるよりはましだろう。


 沖田が作ったのは、そんな簡素な髪型だった。



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