第九花 暈持

 山南が広間から別室へ運ばれた後、沖田が気を失った千鶴を抱えて部屋にやってきた。

 悠日の容貌は既にいつもの姿に戻っているため、特に疑問を持たれることもなく、そのことに安堵しながら沖田を部屋に通した。


「沖田さん、千鶴ちゃんは……」

「今は気を失ってるだけだから、大丈夫だよ。首締められてはいたみたいだけど、山崎くんが言うには大丈夫だって」

「そうですか……」


 沖田の言葉に、悠日はほっととした様子で息をついた。
 横たえられた千鶴に布団をかけてやると、悠日は沖田へと視線を戻す。

 そんな悠日に、沖田はしばらく考えてから口を開いた。


「何が起きたか、君、分かってる?」


 真剣な瞳で見つめられて、悠日は少し驚いたもののそれに頷いた。


「……山南さんが……服薬した、のでしょう?」


 そこから先がどうなるかは、悠日も分かっている。
 それを沖田も分かっているから、それ以上尋ねることはしなかった。


「なら、君への説明はいいかな。千鶴ちゃんのこと、見ててあげてね」


 そう言って立ち上がりかけた沖田の袖を、悠日は引っ張った。
 驚いた様子で振り返った沖田に、悠日は自分の行動に少し恥ずかしそうにしながらも伝えたかったことを口にする。


「待ってください。……千鶴ちゃんへの説明は、どうするつもりですか? 私が説明すると矛盾が生じますし、それ以前に筋が通りません」


 隠していた自分が悪いことは分かっているが、何の躊躇いもなく伝えられるかと言われれば否だ。
 それに、その薬と綱道の関連性については新選組の面々しか知らないのだ。


「君は、どうして欲しいの?」

「……私が知っていたことを隠すつもりはありません。でも、綱道…さんのことは、私よりも新選組の皆さんのほうが詳しいですよね? だから、沖田さんの方から説明していただきたいんです。彼が何をしていたか、私は具体的には分かりませんし」


 綱道の名を呼ぶのに少しの躊躇いが見えたことを怪訝に思いつつ、沖田は仕方ないないと息をつく。

 確かに悠日の言うとおりだ。
 それに、悠日は綱道の顔を知っている上彼の知り合いだということが分かっているから置いているだけで、そこまで深い関わりではないのだ。そんなことまで彼女が知っているとは誰も思っていなかった。


「分かったよ。千鶴ちゃんには僕の方から説明する」


 その沖田の返答に、悠日はありがとうございますと微笑む。
 そんな悠日に、沖田はでも、と言葉を続けた。


「君もちゃんと説明してあげてよ。……僕たちだって、君の事情は知らないんだから」

「それは分かっています」


 悠日が苦笑気味にそう告げると、ふと千鶴が身じろいだ。

 それに気づき、悠日が千鶴をのぞき込む。


「千鶴ちゃん?」


 呼びかければ、彼女の瞼の奥から黒い瞳が覗く。
 しばらくぼぅとした様子だったが、目の前にいるのが悠日だと視認して不思議そうな表情をした。


「……悠日ちゃん?」

「どこか苦しいところとか、ない?」

「う、うん。大丈夫。それより私……」


 どうして部屋に、と言う疑問は、起き上がったのと同時に目に入った沖田の姿が解決した。
 それで悠日も千鶴が現状を理解したことが分かったが、一応説明してあげた。


「沖田さんが連れてきてくれたの」

「君ってホント、世話のかかる子だよねぇ」

「沖田さん!」


 皮肉気味にそう口にした沖田に悠日が非難の声を上げると、沖田はごめんごめんと反省の色のない返事を返してきた。

 そんな二人の様子に呆気にとられている千鶴に、沖田はそれよりも、と話を始める。



「状況説明、してくれるよね? ……山南さんとなんで一緒にいたのか、とかさ」


 反論は許さないという瞳が、千鶴に向けられる。
 悠日もさすがに千鶴を擁護することは出来ず、黙って見ているしかない。


 そんな重い空気の部屋の中、重圧に耐えられるはずもなく、千鶴は広間に向かったことから始まった出来事をぽつぽつと話し始めた。

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