第九花 暈持
「それは、どういう……」
「ところで、牡丹は皆さんのお役に立てていますか?」
話をそらされた山崎だが、ここまで来たら何を聞いても無駄だと考えたのか、それに小さく息をついた。
「立てていないわけでないが……」
とはいえ、役に立てているとは断言しないところを見るに、やはりと苦笑するしかない。
「私も、個人的な要件で調べ物をしてもらっていますから円滑に進むとは思いませんが」
「一体何を調べているんだ、彼女は」
「あの薬についてと、今後の幕府、朝廷の動きについて、ですね。その件に関しては、牡丹から土方さんへ情報が行っているはずですが」
そのように約束したのだから、していないわけがない。
それに、連絡がないのであれば悠日に聞きに来ることになっているのだ。それが今までないということは、おそらく大丈夫だろう。
薬の話を出したのは、それを山崎が知っていると事前に聞いたからで、そうでなければ言うことはなかった。
そうして、警戒を消さない瞳を見上げ、悠日は小さく笑った。
彼はどこか牡丹に似ている。
顔立ちではなく、その性格が。
唐突に笑った悠日に、山崎が寄せていた眉間のしわをさらに深めた。
それを見てすみません、と謝った悠日は、一つお伺いしたいのですがと前置きしたあと、尋ねた。
「……不躾かは思いますが、山崎さんは牡丹と気が合いますでしょうか?」
つい先ほど牡丹に尋ねたことと似たような質問をすれば、山崎が苦虫を噛んだような表情をした。
……これでは合うまいと悠日は確信したが、山崎の返答を待ってみることとした。
「正直なところ、反発ばかりしているからな。合うか合わないかと訊かれれば、合わない、と答えるべきだと思うが」
おそらくそうだろうとは思っていたが、やはりか。
自分への真っ直ぐな忠誠心。
生真面目で、悪く言ってしまえば口うるさい。
もちろんそれは心配ゆえのもので、嫌いだから言われているわけではないとは分かっているが、牡丹はそんな性格をしている。
山崎も、土方への忠誠心は強いだろう。
そして、そんな土方へ反発する沖田へはかなり辛辣だ。
悠日への扱い言葉遣いその他が癪に障るらしく、沖田への言動がかなり辛辣という点に関しては牡丹も同じなので、やはり似たもの同士なのだろう。
「それがどうかしたのか?」
「いえ、気にしないでください。……融通の効かないところはありますが、あの子も根はいい子なので、どうぞこれからもよろしくお願いします」
そう言って頭を下げた悠日のそれを見て、山崎は驚きを隠せない表情で彼女を凝視した。
それに悠日は再び苦笑を浮かべる。
似ているから反発するのだ。だが、似ているからといって反発しあうばかりではない。同調できる可能性もある。
人というものを身近で見たり感じたりしたことがなかったのは悠日も牡丹も同じ。
悠日は沖田という人の存在が、人と触れ合う最も大きな機会だった。
牡丹にもそういう機会が必要だと考え始めたのは、記憶が戻ってしばらくしてからだ。
そして、立場としても役目としても、一番身近にいるのは山崎なのだ。
人との関わりは、積極的に是とするつもりはないが、することを否というつもりもないのだから。
もちろん、よろしくと言われても山崎もどう答えていいのか分からず、かなり困惑しているらしい。
「あの子の仕事柄、関わりが深くなるのは山崎さんでしょうし。もちろん、無理を言うつもりはありませんので」
付け加えるようにそう口にした悠日に、山崎は出来る範囲でなら、とだけ答えて部屋を出ていった。