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▼ 黒尾鉄朗

 彼氏ができました、と嘘を吐いた。

「は? マジ?」
「うん。マジ」

 ただでさえ小さな瞳が見開かれたことによって更に小さく見える。

「えー? こんなに放課後の教室で二人っきりで楽しく会話してるのに?」
「はい」
「……試合前のクッソ忙しい部活の放練オフにお前を選んで一緒に過ごしてるのに?」
「うん」

 えぇーマジでぇ?と寝癖で重力逆らいまくりの髪の毛をかきむしっている。座っている椅子に長い手足をだらんと放り投げ、大きな体躯がスライムのよう。クラス全員同じサイズの椅子を使っているはずだが、黒尾が座っているだけで小さく見えた。そういう、自分よりも大きい男性であるということに気付くだけで、心臓は脈打つ。

「なぁ。俺がお前のこと好きって、気付いてなかった?」
「…………」

 知ってたよ。授業中とか休み時間とか、何気ないタイミングで何故か目が合ってへらりと笑われて。放課後に一緒にだべって。たまに時間が合ったら一緒に帰ったりもして。
 私も好きだよ。お互いに好き合っているんだろうなーと思いながらも、関係性を明確にせずに数ヶ月は過ぎた。

「気付かなかった。ごめん。ずっと仲の良い友達だと思ってた」
「…………そうか」

 私の顔を見せたくもなかったし、黒尾の顔を見たくもなかった。
 このまま仲良く楽しく過ごしていたら、私はもっと我儘になる。そう予感があった。だから、そうなる前に身を引いた。彼の部活は忙しい。大事な時期だ。全国大会への切符を手に入れているのだから、女がどうとかうつつを抜かしてる場合ではない。

「じゃあね黒尾。部活頑張れよ!」

 私がせっかく恋心を殺してまで応援してやるんだから、絶対に試合勝てよな。


230516



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