今日は珍しくアリスも来ない、ボリスも何処かに出かけていてメリーにも絡まれない。
素晴らしき引き籠もり日和!

・・・なんてそそくさと廊下を歩いていたのが悪かったのだろうか。

がっつりとメリーに捕獲され現在に至る。
「暑い、眠い、疲れた、引き籠もりたい、人と話したくない・・・」
フードをすっぽりと被ってテーブルに突っ伏す。
遊園地内のカフェ。
私の目の前に置かれているのはここ最近で飲み慣れてしまった紅茶ではなく、オレンジジュース。
「何だよ。いつもアリスにばっかり構ってるんだからたまには俺と茶してくれたっていいだろ?美奈」

このおっさんには・・・羞恥心の類はないんだろうか。
つい先日(と言っても時間経過がよく分からないので先日という単語で表していいのか分からないが)、私はこのおっさんに抱きしめられた。
しかも泣いた。・・・絆されて。
記憶から今すぐ抹消したい。
出来ることならあの二人の記憶からもすっ飛ばしたい。殴れば・・・飛ぶかな・・・。
泣くなんて最悪だ。
そして・・・恋に落ちるなんて最悪も最悪。
自分で自分を殺してやりたい。
・・・誰かに頼んだら殺してくれないかな。

「美奈」

メリーが私を呼ぶが、シカトする。
(何で、私に構うの)

『あんたはいっつも辛そうだ』

辛い、か。
辛いと言えば辛いのかもしれない。
未だに忘れられなくて、思い出せば鈍い痛みが走る。

『俺は、あんたに幸せになってもらいたいんだ』

本当に何だそれ、だ。
古くさい口説き文句。
使い古されすぎてばかばかしい。
ふとフード越しに頭を撫でられる。
「・・・メリー」
「何だよ・・・っていうかメリーは止めろ!」
「撫でるの止めてよ。子供じゃないんだから」
これでも24だ、24。
けれどメリーに堪えた様子なんて一切無い。
「別にいいだろ?」
よくねえよ・・・。前向きなMだな・・・。

「減るもんじゃないしな」
「私の神経がすり減る」

バカだ。大馬鹿。
この場から消滅してしまいたい。
「美奈」
ふいに降ってきた・・・あまりにも真剣なメリーの声。
消えたい。消えて無くなりたい。

「何でこんなに優しいの」

あの日と同じ質問をする。
あの日と違うのは、私がしっかりとメリーの目を見ている。
あまりに真剣な表情に逸らしたくなるけれど、逸らしてはいけない気がする。

「言っただろ?」

優しく微笑んで、メリーが私の頬を撫でた。
「俺は、あんたに幸せになってもらいたいんだ」

不幸だったことを知っているの?

沸き上がってきた質問を口にしようとして、飲み込む。
知ってるわけがない。知っててほしくなんかない。
「古い口説き文句みたい」
結局感情も言葉も全部飲み込んでそっぽを向く。
「おいおい、ひっでえなぁ」
それでも、何故か楽しそうに見える。
「でもな・・・俺は本当にそう思ってる」

あまりにも真っ直ぐで、あまりにも眩しくて。
自分の弱さが嫌になる。

慰めてもらいたかった?
それとも、私は・・・――になってもらいたかった?

違うと言い聞かせる度に自分の首を絞めているような感覚に陥る。

「あのさ、あんまり変な発言しないでよね。・・・誤解されるわよ」
私は既にしてしまっている。
気まぐれにきまってる。
アイツと同じように、何かが裏にあるに決まっている。
傷があさくて済むように予防線を張る。

「誤解・・・?」

私の言葉を聞いたメリーが困惑顔になる。
アンタは年上のくせにそれくらい分からないのか。

「誤解だったらすればいいだろ?」

出かけた溜息が引っ込んだ。
真剣な声と表情に一瞬誰と会話しているのかが分からなくなった。
「え・・・あ・・・」
言葉を探そうとするが、どれも言葉になるまえに霧散していく。
「俺は、ずっと前からあんたを知っていた。あんたが俺を知らなくても、俺はずっと・・・」
「ストーカー」
「そうじゃない」
場の空気に耐えられず、茶化す。
誤解すればいい、なんて。
「美奈。あんたは幸せになるべきだ」
「止めてよ。そんな風に言われると私が可哀想な奴みたいに思えてくる。私は・・・弱くなんかない」
可哀想じゃない、私は弱くない。
「ああ、そうだな。あんたは弱くない。・・・だから不安なんだ」
ぎゅっと、拳を握る。
「あんたはどんどん内にため込むタイプだ。・・・まあ、アリスと出かけるのもいい気分転換だろ?
認めたら負けな気もしたけど、事実だ。
だから頷く。

好き好んで外出したくないのは今もそうだ。
でも・・・認めたくないけどアリスやボリス・・・もちろん、メリーと出かけるのは楽しい。
そう、楽しい。
楽しいなんて思えたのは何年ぶりだろう。
あの日以来楽しいなんて思えなかった。
何をしても全部モノクロで。景色も人も、言葉も何もかも心に響くことはなかった。
それなのに今はどうなんだろう。
アリスのようにこの世界で生きることに疑問なんて感じなかった
夢だろうと現実だろうと、どうだってよかった。

「メリー」
「だからそれは止めろ」

捕らわれたら、おしまいだ。

「私は幸せになっていい人間なんかじゃない」
息苦しくて、涙が浮かびそうになる。
「私は、誰かに愛されるような人間じゃない」

息が詰まる。
苦しくて、叫びたくて。
その感覚に耐えられず、私はメリーの返事も聞かずにその場を走りさった。




不機嫌彼女と優しい言葉
(捕らわれてはいけない、捕らわれたらおしまい)


(加筆修正:2013/11/18)



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