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「美奈!」
「・・・・・・アリス」
いつものようにぼーっとしながら日に当たっていると、アリスに声をかけられる。
「出かけましょう」
「断る・・・」
さて、そろそろ眠くなってきたから部屋に帰って昼寝でもしようかな。
よっこらせと立ち上がって、アリスから距離を取ろうとして・・・フードを捕まれる。
「断らないの!」
ズルズルとそのままアリスに引きずられ・・・途中でメリーに会う。
メリーはと言うとアリスに「美奈を頼むな」と言ってから私には気をつけて行ってこいよ?と言ってくれる。
「美奈?」
「何・・・」
満面の笑みで出かけるときには?と問われ、
「・・・・・・行ってきます」
何だか久しぶりに・・・誰かにそんな挨拶をした気がする。
「ああ、気をつけろよ」
二回目だ、それ。
大事な事だから(ryってことか?
まあ確かにこの国は少し(というレベルではないが)危険だと言うので・・・少しは心配してくれてるんだと、思う。
「今日は何処に?」
「時計塔の広場よ。カフェでお茶でもしましょう」
ふわっと笑うアリスは、月並みな表現だが、花のようだ。
「いいね」
すっと言葉が口をつく。
「何が?」
「アリスは、可愛くて」
その瞬間照れたのか、アリスの顔に朱が差す。
ほら、そういうのも女の子らしくて可愛い。
「おや?お嬢さんじゃないか」
聞き慣れない男の声・・・に振り返る。
声の主を捜せば、奇抜な帽子を被って・・・これまた奇抜な格好をした男が立っている。
貴族の服・・・?だか乗馬服だかを混ぜ合わせたよく分からない服。
・・・・・・凄いな、センス。
メリーとボリスも大概酷いがこの男も酷い。
その後ろにはウサギ耳をくっつけた大男に、双子と思われる少年。
よし、逃げよう。
瞬時にそう判断して、すすっと後ろに下がる。
「あら、ブラッド。エリオットにディーとダムも」
アリスの知り合いか。
アリスに気付かれないようにダッシュで逃げようとして・・・またもフードを捕まれる。
今度は走り出そうとした反動で首が絞まる。
「ぐぇ・・・」
「帰らないの!」
嫌だ・・・確実に面倒事の臭いしかしないメンツじゃないか。
「もう嫌。帰る。帰って寝る。疲れた、外出たくない、引きこもりたい。眠いし疲れたしそもそも人多くて気持ち悪い」
帰らせて。
というか、あの珍妙なパーティと関わらせないで。
そんな私を見て帽子を被った男が喉を鳴らして笑う。
「・・・面白いお嬢さんだ。名前は?」
その声を聞いた瞬間、体が硬直する。
警戒しろ、と心が叫ぶ。
「・・・月原 美奈。美奈が名前だから好きに呼んで」
今までの人生で身につけた警戒スキルが「この男は危険だ」と警鐘を鳴らす。
「美奈・・・珍しいわね・・・自分からちゃんと喋るなんて・・・」
アリスの感激したような声に、流石の私も
「私を何だと思ってるの」
そう言わざるを得ない。
「引き籠もり」
いや、確かにそうなんだけどね。
いっそ清々しく、きっぱりと言われるとどうでもよくなってくる。
「なるほど。それならば私も美奈と呼ばせてもらおうか。私はブラッド=デュプレ」
「・・・どうも」
動作の1つ1つが気怠げ。
やる気があるんだかないんだか分からないが(人の事を言えたギリじゃないのは棚上げだ)、様になっている。
美形というのは得なもんだ、などと思う。
「俺はエリオット=マーチ。アンタ、アリスの知り合いなんだな」
ウサギ耳を付けた男がニッと笑う。
・・・・・・ウサギ耳。
猫耳男も痛いが、ウサギ耳男も痛いな。
うん、痛い痛い。
「何だよ、その目は・・・」
「いいや、別に」
そっと目を逸らす。
見ていたら笑ってしまいそうだ。
「僕はトゥイードル=ディー。よろしく、おばさん」
「僕はトゥイードル=ダム。よろしくね、おばさん」
・・・・・・。
ふぅと、息を吐いて、口元で笑って・・・。
「誰がおばさんだ、このクソガキ共」
そのまま握りしめた拳を双子の頭に落とす。
ゴッという鈍い音が二回。良い具合に入ったようで私の拳も痛い。
「酷いよおばさん!いたいけな子供に暴力を振るうなんて!」
「そうだよおばさん。暴力反対!」
双子がぎゃーぎゃー騒ぐが私は鼻を鳴らすだけ。
「お前達・・・今のは、お前達が悪いぞ」
「そうよ。女性に対して失礼だわ」
ブラッドとアリスに言われ、双子は完全に黙り込む。
・・・私を睨んだまま。
誰だこの子供の保護者は。
私はというと(自分の感覚的に)、久しぶりな大声に頭がくらくらしてきた。
「お、おい・・・アンタ大丈夫か?」
そんな中エリオットだけが心配の色を見せる。
・・・ウサギ耳で痛い人(ウサギ?)だけどこの珍妙パーティだと一番まともな人・・・否、ウサギかもしれない。
「あー・・・これだから外に出るのは嫌なんだ・・・喉痛い、頭も痛い・・・。みんな死んじゃえばいいのに・・・帰ろう。寝よう」
フードを目元まで被り、踵を返す。
日に当たりすぎて気持ち悪い・・・。
「帰らないの!」
またアリスに襟首を捕まれる。
「ごめんなさい。今日は美奈を外に連れ出したいのよ」
「私は帰りたいです、帰らせてください、寝させてください、引きこもらせてください」
ふむ、とブラッドが顎に手を当てる。
「なら、ちょうど良い。私が良いカフェに案内しよう」
ニコリ、と微笑む。怖い怖い怖い怖い。
「あら、良いわね。行きましょう、美奈」
「・・・・・帰って良い?」
まだ双子には睨まれてるし。
「ダメよ」
「・・・・・・」
結局そのまま引きずられ、私は痛い視線を受けたままカフェに行くことになった。
「・・・疲れた」
ブラッドに案内されたカフェではない・・・アリスのオススメだというカフェ。
そこのオープンテラスで私はテーブルに突っ伏す。
「まさかブラッド達と会うなんて・・・驚いたわ」
紅茶を飲みながらアリスが笑う。
「友達・・・?」
「ええ、そうよ」
目の前の少女は交友関係が広いらしい。
可愛いし、性格も・・・良いとは決して言えないが、私ほど酷くはない。
好かれるだろう。
「美奈は・・・」
「ん?」
「元の世界に、何か置いてきた物はあるの?」
そんなもの・・・。
「何もない」
何も持っていない人間が、どうして何かを置いていけるのか。
「一応職にはついてたし、自立してた」
『あの』後から親元を離れた。
私を労る両親が嬉しくもあったが・・・それ以上に苦痛だった。
そっとしておいて欲しかった。
傷口を抉るような真似、しないで欲しかった。
「そう・・・友達とかは?」
「友達・・・」
友達と呼べる人間が、居たんだろうか・・・。
目を閉じて考えてみる。
「いない。友達なんて人も一人も」
答えは、否。
『あの』後から人との交流は絶った。
誰も信じられなくなったし、信じたところで無意味だと思ったから。
今だって・・・。
・・・?
今は、どう?
今の私は?
「残してきたものなんて、何もない」
自分に言い聞かせるようにそう呟く。
だから此処に居ても罪悪感なんて感じない。
ここが妄想でも夢でも実在する異世界でもなんでもいい。
私が罪悪感を感じることなんて一切無い。
・・・でも、アリスは違う。
彼女は悩んでいる。
此処に居ること、生活をしている事。
そして、馴染んでいる事。
私は違う。悩まない。
悩めない。
「ねえ」
「何」
「私たち・・・友達になれない?いえ・・・もう友達よね?」
ポカン、とバカみたいに口を開ける。
ともだち・・・。
友達?
誰が?誰と?
もう暫く聞くことのなかった単語に、頭の中は疑問符でいっぱいになる。
「・・・・・・私と、アリスが?」
「他に誰が居るのよ」
いやそうなんだけど。
開いた口がふさがらない、っていうのはこういうことか・・・。
まともな交流関係を持ってたのなんて・・・大学初期くらいかな・・・。
「嫌?」
「いっ・・・やじゃない!」
友達。
私と、アリスが。
嬉しい・・・、そう、嬉しいと思っている。
私にもまだ人間じみた感情があったんだと、そう思う。
「よかった」
微笑むアリスは、やっぱり花のよう。
「これからも一緒に外に出ましょうね!」
「それが目的か・・・!」
「違うわよ、それだけじゃない」
クスクスと笑うアリスに、少しだけ目眩を感じて・・・。
でも、それも悪くないなんて少しだけ思った。
不機嫌彼女と余所者少女
(アンタいい性格してるわ)(そう?ありがとう)(・・・・・・)
(加筆修正:2013/11/18)