「何処だ、ここは」

シンフォニアの裏手の森、っていうのは分かっている。
うん、学生なのにこんな所まで来たのが悪かったか。

魔法薬学に使う薬草・・・が生えている場所を探しにここまできて、目的の物を手に入れたのはいい。
帰り道が分からない。迷った。
方向的にはこっちであってるはず。・・・あってるはずなんだ。

まぁ、学校に常備されてる薬草でもよかったんだけどさ。
生えてるのも見てみたかったんだよね。
それにここは学校の敷地内。歩いてればどっかには出るはず。
ざくざくと落ち葉を踏みながら(多分)正しい道を歩く。

「・・・ん」

半透明の何かが落ちて・・・いや、地面から数センチ浮いてくねくねしている。
・・・ああ、コレあれだ。ガイダンス用のマジックアイテム。
うねうねと動く様は死にかけのウミウシのようだ。気持ち悪い。

「おや、迷子?君、迷子だね!?」

ウミウシ(仮)は途端に元気になって私の目の前にやってくる。
握りつぶしていいかな?いいよね?

「迷ってないよ。多分正しい道を歩いてる」
「多分って君・・・完全に迷子じゃないか」

・・・まぁね?迷ってるか迷ってないかで言ったら迷ってる方なんだけどさ。
でもなんだろう。こいつに頼るくらいなら迷ってた方がマシだと思ってしまう。何故だ。

「俺は優秀なガイドだからね。君が一番行きたい場所に連れて行ってあげるよ」
「・・・・・・」

さて、どうするか。
これに頼るべきか、自力で探すか。
考えて、とりあえずさっさと帰ってレポートをしようという考えに至る。
ウミウシ(仮)でも一応このシンフォニアのマジックアイテムだ。ちゃんと道案内くらいできるだろう。

「分かった。じゃあお願い。とりあえず・・・中庭にでも行ければいいよ」

半透明のウミウシ(仮)は空中でぐるりと回ると私を導くようにふよふよと漂い出す。
そうして歩いていると落ち葉のざくざくという音はやがて消えていき、固い地面が見えてくる。
ああ、ようやく見覚えのある場所にたどり着いた。

「ここでいいよ。後は分かるから」
「ん?君が行きたい場所はここじゃないだろ?」

律儀に中庭連れてく気かこの矢印は。

まぁ、マジックアイテムだから仕方ないのか。
案内され終わるまでついてこられても面倒くさい。
大人しく案内されておくことにしよう。


「よし、君が行きたい場所はここだ」
「・・・・・・」

たどり着いたのは中庭は中庭でも、あまり人気がない場所。
「・・・美奈?」
私の担任の、お気に入りの場所でもある。

「おいクソ矢印」

矢印のしっぽ?部分を掴む。
思ったより力が入ったからかウミウシ(仮)がびくっと震える。
「誰がここに連れてこいっつった?」
これじゃまるで私がメリーがお気に入りの場所に着たかったみたいじゃないか。おいやめろ。

「俺は優秀な迷子専用ガイド!迷っている人が一番来たがってる場所に案内できるんだよ!」

それから、役目は終わったとばかりに消えていく矢印に悪態をつくも、意にも介さず消えていく。

「・・・」
「迷ってたのか?何処をそんな迷う場所に行ってたんだ」

無言で、薬草の束を持ち上げる。

「ああ、次の授業に使う・・・ってちゃんと準備室にもあるだろ?」
何だって取りに行ったんだと言われる。
・・・ああ、くそっ。言葉の端に私を心配する響きがあって、突っぱねる事が上手く出来なくなる。

「別にそれでもよかったんだけど。自然に生えてるのも見てみたかったの」

はぁ、何だか一気に疲れた。
どかっとベンチに腰を下ろす。
とりあえずコレは後で部屋に干して乾燥させておこう。

「大丈夫か?」

私の隣に座ったメリーの指先が私の頬を撫でる。
「なっ・・・」
その手をはね除けようとして、ぴりっと痛みが走る事に気付く。
「怪我してる。何処かの枝で切ったんじゃないか?」
「大したことないからいいって」
この人は、心配性だと思う。
ただ、その気持ちを心地よく思うのも事実で。

大きくため息を吐いてから、私は立ち上がる。

それからポケットから取り出した箱をメリーの手に押しつける。

「・・・・・・あげる」

ここに来てしまった理由なんて、本当は自分がよく分かってる。
「何だ、これ」
「チョコレート」

私がうっかり広めてしまったヤマト式のバレンタイン。
ルーンビナスでは男女問わず感謝の気持ちを伝えるのがバレンタインという行事だった。
私の故郷であるヤマトはバレンタインにチョコを渡して愛の告白をするのが一般的だと言ったところ、思った以上に広まってしまった。
何だかバレンタインが女の聖戦状態だ。

「俺に、でいいのか?」
「いいから渡してんでしょ。耳だけじゃなくて頭も逝ってんじゃないの?」

受け取ってもらえなかった場合を考えて悪態をついて。
でもそんな心配はいらないとばかりの笑顔を見ているとほっとする。
・・・思ったよりも緊張していたらしい。


「美奈」
「ん?」


引かれた手の甲にキスを落とされる。
「っ・・・」
「流石にここでこれ以上は、な」
「アホか」

アンタは教師で、私は生徒だ。
そもそも生徒に手を出すとか笑えないぞ。
・・・・・・教師に手を出す生徒も笑えないか。

嬉しいなんて言うのは癪だから、いつものように余裕ぶって口元にだけ笑みを浮かべた。





―――
ハッピーバレンタイン。
仕事が若干修羅場状態で現実から逃げていた所、迷子になってるときにあのウミウシにゴーランドの所まで連れてってもらえたらとか思い浮かんだ

もので。
折角2月だしバレンタインのお話になりました。




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