「断る」
予想通りの返事が返ってきて、私は思わずため息をつく
「お願いよ。貴方に会いたいってすごく機嫌悪いのよ。ビバルディが少し機嫌が悪くなっただけで、誰かの首が飛ばされちゃうのよ?」
だが、美奈はえー・・・と目をそらすだけだ
「・・・でも、うっかり美奈がビバルディの機嫌を損ねたら・・・美奈の首が飛ばされる・・・」
「あー・・・」
「・・・・・・ゴーランド、キレるなんてレベルじゃないわよね」
見ていてドン引きするレベルくらいに、ゴーランドは美奈を溺愛している
付き合いの長いボリスですら『あんなおっさん初めて見た・・・』と引いていた
何というか問題なのはその溺愛ぶりに美奈が気づいていないことだろうか
「・・・で?行った方がいいの?」
「・・・できれば」
「んじゃ、めんどいけど行く」
そっちで仕事をしていたゴーランドに出かけてくると声をかけてから、いつものだるそうな動作で歩いてくる
しばらく歩くと、ハートの城が見える
「・・・メルヘン」
「我慢してちょうだい」
私だってメルヘンは苦手なのよ
城の中に入り、見慣れた兵士さんたちに挨拶をし、ビバルディが居るであろう謁見室に向かう
「アリス!来てくれたのじゃな。それで、余所者は?」
「外にいるわ。飾ってあったバラに興味津々だったから・・・」
何かブツブツ呟いていたから放っておいた
「今すぐつれてこい」
分かったわ、と返事をして謁見室を出る
「美奈。来てちょうだい」
不安要素しかないのが、とても怖い
「・・・お前が、ゴーランドがつれてきたとかいう余所者か?」
「あー・・・そうみたいですね」
ガリガリと頭をかきながら、美奈は要領を得ない返事をする
「何じゃ、はっきりせい。首をはねるぞ」
「そう言われても、気づいたら遊園地に立ってたんで、自分でも何が何だかって話なんですよ」

だって、美奈は【案内】されたのじゃなくて、【落ちて】きたのだから

「ビバルディ、美奈は私みたいに案内されてここに来たんじゃないの」
「ほう・・・よほどゴーランドの思いが強かったようじゃの」
コツコツとヒールの音を立て、ビバルディが美奈の前まで歩いてくる
そして、持っていた杖を美奈の首にぴたりと当てる
けれど美奈の表情に変化はない
いつだったかビバルディが時計塔にやってきた時、似たような光景を見た(あの時はユリウスの顎に杖を当てていたが)
「お前の首をはねたら、ゴーランドはどんな反応をするだろうな」
整った唇を歪めて笑うビバルディは、美しいからこそ、怖い

「さぁ?」

予想なんて、出来なかった
だって、【美奈】を理解することなんて出来なかったから

「私はメリーじゃないから、アイツの気持ちなんか分かんないよ」

至極まともなことなのに、美奈が言うとどうしてこんなに冷たく聞こえるのだろうか
「まぁ、それを除いても貴方に殺されてあげる理由がないから、はねられそうになったら滅多に出さない全力で逃げますけどね」
手で杖を払い除け、いつもの調子で美奈は続ける


「お前、本当に余所者か?」


別段怒った様子もなく、ビバルディは美奈に尋ねる
「・・・?私が余所者だから、貴方は私に会いたがってたんじゃないんですか?」
「余所者にしては肝が据わっておる。アリスにこうした時は、とても怯えていたぞ?」
「あ、そういうことですか。私元ヤンなんで、ケンカとかそういうの日常茶飯事でしたから」
「ねぇ、アンタどういう人生送ってきたの?」
ケンカが日常茶飯事なんて・・・私も人のことは言えないけれど
「・・・中学校の時にヤンキーデビューして、中学卒業と一緒に卒業してみた。その後はバンドやってみたり、趣味のガーデニングでひたすら花育てたりして、就職して今に至る」
よく分からない人生というのは分かったわ
「ほう、趣味がガーデニングとな」
「えぇ、この城に咲いてるバラ、凄くキレイですよね。・・・やっぱ手入れがいいのかな、それとも土?」
何事か考え出して、ブツブツ呟く美奈は、とりあえず放っておくことにしましょう
「・・・ここまで考え込むのもどうかと思うけど・・・でもこのお城のバラってキレイよね」
ビバルディに似合う、赤いバラ
この赤い城には、赤いバラしかない
「そうであろう。わらわは赤いバラが好きなのじゃ。まるで血の色のように見えるだろう?」
「あー、分かります。バラに限らず、赤い花って見てると血を連想しますよねー」
「2人とも、もっと平和なもの連想しましょうよ」
ビバルディはともかくとして、美奈の頭までここまで物騒とは・・・
「って言ってもなぁ・・・赤・・・赤かぁ・・・夕日とか」
「なんじゃ、お前も夕日が好きなのか?なら次は夕方の時間に来るとよい。3人で茶でもしよう」

ビバルディ、美奈のこと気に入ったのね

若干機嫌が悪そうな美奈を尻目に、ハートの城にしては珍しく、穏やかな時間が過ぎて行った









不機嫌彼女、女王に招待される
(できればもう行きたくない)(頑張りましょうね、美奈)



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