空気が冷えている
元々ゴーランドとブラッドのお茶会はとても冷え冷えとした空気が流れている
・・・今日はいつもの比じゃないほどに寒い
「おや、お嬢さん。顔が青いがどうかしたのか?」
「いえ・・・何でもないわ」
私がそうブラッドに答えると、ブラッドはならばいい、と気だるげな微笑を浮かべ・・・そして美奈に声をかける

・・・それが問題だった

ブラッドが美奈に話しかける度にゴーランドの機嫌が急降下して行くのが分かる
・・・カップ、ヒビが入っているように見えるのは気のせいかしら
更に問題なのは美奈が普通にブラッドに返答している事だ
表情はいつもの無表情に近い顔だが前にブラッドを苦手だと言ったときの様な張り詰めた表情ではない
貴方・・・ブラッドが苦手って言ってたわよね・・・?
私が必死に目で訴えても美奈はこっちを見ない
というよりもゴーランドの事も見ていない
そしてブラッドの事も見てない・・・
何を見てるの?
空?
夕焼けの空が広がるだけで何も無いわよ
それとも美奈・・・貴方には何かが見えているわけ?

「・・・?メリー、どうした。顔色悪いけど」

こんな時に禁句を・・・!

「・・・何でもねぇよ」

ゴーランドが・・・メリーって言われて怒らない・・・?
違うわ・・・それよりも、ブラッドが美奈にちょっかいだしていることが気に食わないんだわ
ブラッドは私を見て、口元を歪めて笑うと、美奈にお茶のお代わりを訊ねる
「ん?じゃあ貰おうかな」

美奈・・・アンタって・・・!!

疎いにも程がある
直後にピシッという謎の音
ゴーランドの方を見ると・・・あぁ、カップにヒビが・・・
(ゴーランド!)
(何だ)
(何だ、じゃないわよ。アンタカップ、割る気?)
そんなわけないだろ、と笑うが・・・その目には若干の殺意が見え隠れしている
「おや、どうした。ゴーランド。顔色が悪いぞ?」
「具合悪いんじゃないの?帰る?」
やれやれと言ったように首を横に振りながら美奈が立ち上がる

・・・よかった、これで残るなんて言ったらこのお茶会が血の雨になるところ・・・

「おや、君が帰る必要はないだろう?よければこの後もお茶を飲んでいかないか?」

ブラッド・・・!
アンタわざとあおってるわね・・・
それを聞いたゴーランドが、普段は見せない冷たい目をして
「帽子屋、美奈にちょっかいかけるのは止めてもらおうか?」
そういい捨てる
正直、怖い
「ほう。私はただお嬢さんをお茶会に誘っているだけだが?何か問題があるのか、ゴーランド」
ブラッドはブラッドで挑発的な笑みを浮かべながらそう返している
それを皮切りに2人の大人気ない・・・と言うか、子供のケンカのような言い合いが始まる
・・・美奈はと言うと、自分が原因だというのに呑気に紅茶を啜っている

「美奈、ちょっと来なさい」
ちょいちょいと手招きし、美奈を呼ぶ
「何」
「何、じゃないわよ。何で2人が言い合いしてるか分かってるわけ!?」
アンタが原因よ、アンタが
「・・・・・・あ、ケンカしてる」
そもそも気付いてなかったわけね
「美奈、貴方ブラッド苦手なんじゃなかったの?」
「・・・苦手な物」
「え?」
「私とあいつで苦手な物が一緒でさ・・・ちょっとだけ親近感湧いたんだよね」
ゴーランドの動きが止まる
私は美奈を引っ張るとゴーランドとブラッドに聞こえないように美奈に話しかける
「ねぇ、貴方付き合い始めてからちゃんとゴーランドに好きって伝えてる?」
すると、しばらく考えてから言ってないと真顔で返される
「・・・ゴーランド。貴方がブラッドに構ってばかりで拗ねてるのよ。ブラッドに乗り換えたとでも思われたんじゃないの?」
美奈は、意味が分からないというように眉を寄せる
「何で?」
「何で・・・って」
「だってさ、私メリーが居るからここに残ったんだけど。何で乗り換える必要があるのさ・・・」
照れ屋で天邪鬼のくせに、こういうことはサラッと口にするのよね・・・
「後、メリーの事嫌いになるなんてありえないし」
「何でよ」
その問いに美奈は少し顔を赤くして、何でも、と要領を得ない答えが返って来る
「とりあえずメリーに好きだって事を伝えればいいんでしょ?」
「え・・・えぇ、そうね」
また言い合いを再開したゴーランドに近づくと
「メリー」
と彼を呼ぶ
だから、それは禁句だって・・・
「あんたはちょっと下がってろ」
「いや、今言わないと・・・あぁもう!」
ガリガリと頭をかいたかと思うと、美奈はゴーランドのタイを引っ張る



必然的に、唇が重なる



・・・・・・私たちの目の前で
「・・・なっ」
「あー・・・、んで・・・何の話してたんだっけか」
こちらに頭だけを向けながら訊ねてくる
今さっきの会話も覚えてられないの?
「あぁそうだ。好きとか嫌いとかそんな感じの話だった気がする」
気がするんじゃなくてまさにそのとおりなのよ
「くくっ・・・目の前で見せ付けるとは・・・妬けるな。お嬢さん」
「だからお嬢さんって年じゃねーって何度言ったら分かるんだよ、ブラッド=デュプレ」
眠いから帰る、と体を伸ばしながら言う
「てかメリーも帰ろうよ。疲れた。眠い。帰って寝たい」


本当に不思議な人


アンタ、いい年した大人よね?子供じゃないのよね?
今のはまるで駄々をこねる子供のようだ

「そうだな、帰るか。じゃあな、帽子屋」
茶、美味かったぞと白々しい笑顔で付け足す
怖い・・・今初めて私はゴーランドを怖いと思ったわ・・・
多分美奈が関係してるからなんでしょうけど・・・
「じゃあね、アリス」
「え・・・えぇ・・・」
ブラッドは無視なのね



美奈とゴーランドの居なくなった庭
居るのは、私とブラッドだけ
「もう、美奈にちょっかいだすの止めたら?」
だって彼女は絶対にゴーランド以外になびいたりなんてしないんだから
「彼女の世界はとても狭い。その世界に、入って見たいと思わないか?・・・いや、お嬢さんはもう彼女の世界に組み込まれているか」
くくっと咽を鳴らして笑う
「・・・興味本位?」
「さぁね」

美奈も分かり難いけどこの男も分かり難い







不機嫌彼女と不機嫌侯爵
(好きな気持ちに揺らぎはない)(不安定な余所者だから不安になる)






「・・・で、アリスが言ってたんだけどさ」
「ん?」
「メリー、私がブラッドに構ってたから機嫌悪かったって本当?」
分かりやすく肩を揺らすメリーは、見ていて何だか酷く安心する
「ふぅん・・・それって、浮気を疑われてたってこと?」
意地悪く笑って、私は言う
「そっ・・・ういうわけじゃ・・・」
「同じ事だと思うけど・・・。まぁいいや」
ガリガリと頭をかく
「・・・その、ついでだから伝えておくけど・・・私、アンタが居るから残ろうって思ったんだから・・・だから・・・」
ポンッと頭に手が載せられる
「ごめんな。あんたが、帽子屋に取られるんじゃないかと思ったら・・・平常で居られなくなった」
「・・・ん」
自分から手を繋ぐ
「んじゃ、1つ言っておく。浮気なんて絶対ないから。・・・アンタもやめてよね、そういうの」
当たり前だろ、と聞こえた声が心地よくてギュッと眼を閉じた



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