帽子屋屋敷
そこに私は1人で居た
・・・正確には1人ではなく、この屋敷の主のブラッド=デュプレとナンバー2のエリオット=マーチも居るが
残念な事に、ほんっとうに残念な事にアリスが居ない
ユリウス=モンレーとデートだそうです
一緒に来て欲しかったけど、邪魔するのもアレなので・・・馬に蹴られて死ぬからね
人の恋路を邪魔すると、馬に蹴られて死ぬんだよ・・・
と昔誰かが言っていた気がする
馬に蹴られて死ぬのも交通事故で死ぬのもどうでもいいや・・・どっちでもいいよ・・・
ブラッド=デュプレに誘われお茶会に来ている
何度目だ
何か当人曰く、お茶会を開くのはルールらしい
私を巻き込むな
「・・・・・・」
そして・・・テーブルを見て、私は思いっきり引いている
オレンジ、オレンジ、オレンジ
何処を見てもオレンジ色
唯一違う色は、私とブラッドのカップの中身くらいか?
それくらい、テーブルの上は鮮やかなオレンジ色に埋め尽くされていた
「・・・エリオット=マーチ」
「何だよ、美奈。つーか何でフルネームで呼んでるんだよ」
「アンタと名前で呼び合うほど仲が良くないから」
そこはバッサリ切り捨てておく
友達はアリスとボリスで十分だ
広く浅くの付き合いよりも、狭く深くでいい
数が多いと把握できん
ユリウス=モンレー?
ユリウスはアリスの彼氏なだけで、仲がいいかと問われたら、顔見知りの他人レベルだ
「そんなことはどうでもいいんだよ。それよりこのオレンジ色は何なの」
そう聞くと、エリオットはキラキラした笑顔でお花を飛ばしながら(幻覚が見える)、
「にんじんだ!」
と答える
「・・・・・・にんじん」
顔が引きつる
自慢じゃないが、私は偏食だ
野菜?基本的に食べない
食べられる野菜なんて・・・玉葱とか、キャベツとかレタスとかその辺
にんじん?

・・・食えるわけが無い

肉とか魚とか美味しいよ、肉肉
晩御飯、肉食べたいな
から揚げとか、とんかつとか
焼鮭もいいなぁ・・・ムニエルにしても美味しいし

「・・・って何してんだ、エリオット=マーチ!」
お花を飛ばした笑顔のまま、エリオットがケーキを切り分けた皿を私に寄こす
食えと?
このオレンジ色を食えと!?

「あー・・・」
適当に言ってブラッドに押し付けるか、と思ったら
「おい、ブラッド=デュプレ」
冷や汗をかきながら、明後日の方を向いているブラッド
「・・・・・・まさか」
「何だね、美奈」
「アンタ、も?」
オレンジの物体を見ながら、私はブラッドに尋ねる
「・・・君もか」
はぁ、と溜息を吐きながらブラッドが首を力なく振る
「ん?どうしたんだよ、2人とも」
「・・・・・・悪魔が来るねって話」
それはお前のことだけどな、エリオット=マーチ
「悪魔!?どこだ!何処に来るんだ!」
「・・・・・・大丈夫、後10回時間帯が変わるまでくらいは来ないから」

多分

「・・・それより、エリオット=マーチ。アンタ、その・・・にんじんが好きなんだ」
いや、とにんじんスティックを食いながらエリオットは首を横に振る
は?と私は思わずウサギを見る
ふっさふさした耳だ
ウサギだ
ウサギはにんじんが大好きなんだ
そういう設定のはずだ
「だってそれ、にんじん・・・」
「にんじんスティックだ。こっちはにんじんケーキにニンジンのコンポート、これはブラマンジェ」

知るか

思いっきり顔に出ている気がするが、気にしない
「つまり、にんじんを使った料理が好きなんだ」
「おう!ここのシェフは最高だぜ〜」

自分の世界にトリップし始める

「あー・・・ブラッド=デュプレ?」
「何も言うな」
はは・・・と顔を引きつらせたまま、頷く
「エリオット=マーチ」
「何だ?」
「そんなににんじん料理が好きなら、私は遠慮するよ」
営業用のキラキラスマイルで、寄こされた皿をエリオットに渡す
「好きなものは沢山食べたいだろ?」
すると、エリオットの笑顔が更にキラキラしたものになる
「アンタ、いいやつだな・・・」
「・・・ども」
私がにんじんを食べたくないから、とはいえない流れだな、これ
「でも本当にいいのか?お茶会なのに菓子、食わなくて」
「ここのお茶は美味しいから、それだけで十分だって。はは・・・」
食ってくれ
ブラッドの顔色がとてつもなく悪いような気がするのは気のせいか・・・?

気のせいじゃないな

「エリオット。君が食べたいなら私の分のその・・・オレンジ色のそれも食べるといい。いや、食べてくれ」
必死だな
そこまで嫌いか
私は流石にそこまでじゃないぞ
オレンジ色のそれ・・・って
どんだけにんじんに嫌悪感を抱いているんだ
「いいのか!?ブラッド・・・俺、ブラッドの事大好きだぜ!」

ぶっ

思いっきりブラッドが紅茶を噴き出した
きたねっ・・・
まぁ行き成り大好きだ!はねぇ・・・
「あ、美奈の事も大好きだぜ!」
「・・・ども」
キラキラ笑顔が眩しいよ、うさぎさん
何で素直で、何て真っ直ぐで・・・

愚かなヤツ
私には出来ない生き方
好きなものにははっきり好きと言う
笑顔でにんじんケーキをバクバク食べるエリオットと、未だにむせているブラッドを見ながら、私は小さく溜息を吐いた






お茶会が終わり、ブラッドに声をかける
「アンタ、にんじん嫌いなんだ」
私もだけど
「・・・あぁ、エリオットが昔から執拗に勧めて来てな・・・」

そりゃトラウマになるわ

通りであの死んだ魚みたいな濁った目をしてたわけだ
オレンジ色のそれとか言うわな
にんじんという単語すら聞きたくないんだろうなぁ・・・と思う
「まぁ、その・・・頑張れ?」
いつもの顔でブラッドを見たはずなんだけど、どうやら目に哀れみの色があったらしい
ブラッド=デュプレが哀れむな・・・と弱々しい声で反論してきた
「いやそんなつもりは。・・・お互い頑張ろうか」



不機嫌彼女、帽子屋と意気投合する
(完璧そうに見えて、意外な弱点発見)(お嬢さん、何を考えているんだね)(いや、別に)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -