ありえない、ありえない
目の前でニコニコと爽やかに笑う男を見て、私は今顔を引きつらせている
似ている
思わず、アイツの名前を叫んでしまった
そして絡まれて今に至る
「あのさ、君もしかしてペーターさんが言ってた余所者?」
「ペーターって・・・あのドグサレ白ウサギ?」
私の中じゃ最下層だ、アレは
「ははは、君面白いなー。俺はエース。―――って名前じゃない」
顔が引きつる
「あー・・・そいつと間違えたことは謝る。ごめんなさい。雰囲気が似てたから、つい」
顔は似てない、でも雰囲気がそっくりだ
「私は月原 美奈。美奈が名前だから好きに呼んで」
「あぁ、よろしくな、美奈」
いい笑顔です、お兄さん
根暗で卑屈で引きこもりな私と真逆で、明るく爽やかアウトドアそうなイメージだ
多分その通り
年は同じくらいか・・・少し上か
「美奈は今から何処に行くところだったの?」
「時計塔。アリスに渡すものがあるから」
中身は知らないが、ボリスからの預かり物だ
引きこもり解消用にとボリスに押し付けられた。あの腐れ猫後でぶっ飛ばしてやる
「へぇ、俺も時計塔に行くところだったんだ。今回は進歩してさ、50回時間帯が変わっただけで着けたんだぜ」
「何処から、何処に?」
「もちろん城から時計塔広場にだよ」
何をもってしてもちろんなのかが分からない
私はこいつの名前しか知らないから、城の関係者だと言うことは知らない
・・・いや、ペーターと知り合いは全員城関係者?
・・・・・・いやいや、ユリウスはペーターを知ってるみたいだけど城関係者じゃないしな
「・・・つか50回!?」
城から広場までどのくらいあるのかは知らないが、遊園地から広場までで大体1回から2回変わる程度だ
変わる間隔が短いと3回以上変わる事があるが、稀だ
「えー・・・と、エース?」
「何?」
「アンタってもしかして、方向音痴?」
いやまさか
「いや、俺は道に迷ってるんじゃない。壮大な旅をしているんだ」
方向音痴の自覚が無い方向音痴だな、これは
多分、近道だとか言って意味の分からない道を通って更に遠回りになるパターンだ
「あぁ・・・そう・・・」
ダメだ、こいつには関わらない方が身の為な気がしてきた
「あら、珍しい組み合わせ・・・っていうかこの組み合わせは初めて見たわね」
「アリス」
助けてくれ、本気で助けてお願い
「やぁ、アリス。久しぶり」
「えぇ、久しぶり。ビバルディは元気に・・・って貴方に聞いても仕方ないわね」
酷いなぁとエースが爽やかに笑う
あぁ、やっぱり知り合いなんだね
「アリス。これ、ボリスから渡してくれって、じゃ、私は替えるから」
久しぶりに浮かべた営業スマイルをしつつ、帰ろうとするとアリスに襟首を掴まれる
「首絞まってます・・・おぜうさん・・・」
「帰らないの!」
「いやだって、眠いし・・・」
ダメよ、とアリスの可愛らしい声が聞こえる
帰りたい帰りたい
何か脳内の警報センサーがこの男に関わるなと言っている
ふと、街中がざわついたのが分かる



(ねぇ、アレって・・・)
(見ちゃダメよ。あの金髪の子、時計塔に住んでる子でしょ?)
(あっちの黒い髪は・・・)
(そっちの子と仲がいい人だと思うけど・・・何処に住んでるのかしら)
(それよりも・・・あの役持ち様って・・・)



「美奈?」
「ん・・・何でもない」
気のせいじゃないが、周囲がざわざわしている
「んで、エース。アンタって城の関係者なんでしょ?何で此処にいんのさ」
ついでに言うと半強制的に拉致られた舞踏会でこいつを見た記憶はない
「何でって・・・友達に会いにきたんだよ」
「へぇ・・・」
友達多そう・・・いや、少なそうだな
友達になったら凄い勢いで迷惑かけられそうな・・・そんな予感がする
「ユリウスからも話は聞いてるよ。美奈って遊園地に住んでるんだろ?」
「そうだけど・・・」
何で知ってるんだ・・・

「だからユリウスに聞いたんだって。夢魔の手助けなしにハートの国に入った凄い余所者だってさ」

夢魔・・・?
何か前にも聞いた気がするな・・・

(あぁ、そうだ)
ペーター=ホワイト
アイツが夢魔がどうのとか言ってたな・・・
「あのさ、夢魔って誰」
「え?美奈知らないの?・・・と言うか、会ったことない?」
ない、ときっぱりと返す
「ふぅん・・・やっぱり君は【特別】なのかもね」
特別?誰が・・・って私が?
「意味分かんない」
「はは、ならそれでもいいんじゃないかな?」

何と言うかイラっとする男だ
よくコレと友人関係築けてるな、ユリウス=モンレー・・・



(あの黒い髪の子・・・よく役持ち様にあんな口効けるわね・・・)
(私たちみたいに役なしのカードじゃないのかしら)
(さぁ・・・でも何だか不気味だわ)



思いっきり聞こえてるんだけどなぁ・・・
こそこそと会話してるおばさんたちにチラッと視線を向けると、彼女達はそそくさと去っていく
「美奈?」
「何でも」
可愛い友人に気取られないようにいつもの調子で言う
「・・・で、帰っていい?」
「ダメよ」
ニッコリと微笑まれ、これは暫く帰れなさそうだと思う
エースの胡散臭い笑みを横目に見ながら小さく溜息を吐いた






「今から遊園地に帰るんだ」
「・・・ん?遅くなるとメリーがキレるから、めんどくせーんだ」
へぇ、とエースは胡散臭い笑顔を顔に貼り付けている
「それでさ、美奈が俺と間違えた―――って、誰なんだ?」
ズキリ、と胸が痛む
「・・・昔付き合ってたヤツ」
「へぇ、昔って言ってる割りには今凄く反応したよね」

この男―――っ!

瞬間的に頭に血が上るが直ぐに下がる
「過去形だっつの。今はもう、興味ない」

好きの反対は、興味が無い

なんだってさ
とある漫画の中の台詞
まったくもってそのとおり、好きでも嫌いでもないものは、興味が無いもの
「俺に似てるんだ」
「雰囲気だけね。アイツはアンタみたいにニコニコしてなかったし」
それは私にだけで、彼女に対しては優しい笑顔を向けていた


本当は、向けられたかった


「んじゃ、私帰るから。また会えたら」
「あぁ、またな。美奈」


何か、本当にまた会いそうで怖い


不機嫌彼女、騎士と遭遇する
(できればもう会いたくない・・・)




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