「それにしても良かったわ」
町の中、相変わらずの仏頂面で隣を歩く美奈を見てアリスは微笑む
「何が」
美奈が抱えた紙袋の中には果物や砂糖などが入っている
「貴方よ、美奈。ようやく引きこもり解消したのね」
「いや・・・別に完全に解消したわけじゃないんだけど。今日は気が向いたから買い物に出ただけだし・・・」
買い物に出たついでに、アリスのいる時計塔へと足を運んだのだ
その時のアリスの喜びようは尋常ではなかった
美奈がお菓子を作るというのでアリスもそれに参加することになったのだ
「そのお菓子はゴーランドに?」
「私の胃の中」
「あのねぇ・・・」
だが彼女が天邪鬼だと分かった今は、それもほのぼのとした気持ちで見守れる
「何?ニヤニヤして」
「別に。私はユリウスに渡すけど?」
「・・・・・・アンタ、ほんっとうにいい性格してるよ」
美奈の言葉にアリスは笑う
そして、その表情が固まる

「アリス?」

今まで見たことのない嫌悪感に満ちた表情に、美奈は意味が分からず声をかける
「アリス!」
そして目の前に現れるウサギの耳
「・・・・・・白ウサギだ」

不思議の国のアリスで【アリス】が不思議の国へ迷い込む原因を作った人・・・否、ウサギ
「アリス!僕に会いに来てくれたんですね!さぁ城へ行きましょう!部屋は用意させますからね!」
「何でアンタはいつもそうなのよ!」
見事な拳に、美奈はおー・・・と声を上げる
「美奈、行きましょう!」
アリスが美奈の腕を引っ張り、その場を後にしようとする
「待ちなさい」
後頭部に何かが当てられている
「アリスー。何向けられてる?」
「ぺ・・・ペーター!何してるのよ!」
白ウサギペーターは思い切り銃を美奈の頭に当てている
「貴方、何なんです?僕の愛しいアリスと一緒に居るなんて・・・殺しますよ」
「これって脅されてるのかなぁ・・・うん、24年間生きてきて始めて脅されたよ・・・」
感慨深げに美奈は遠い目をする
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?ペーター、止めなさい」
「嫌です!最近僕に会いに来てくれないのはこいつのせいなんでしょう!?こいつを殺せば貴方は僕のところに来てくれる」
「やべー、こいつ思考ぶっ飛んでるよ」
「美奈も!そんな暢気に・・・」
大丈夫大丈夫と美奈はアリスに抱えていた荷物を手渡す
「んー・・・ペーターだっけ?」
「何ですか。僕は貴方と会話する気は一切ありませんから、さっさと死んでください」
パァン、という銃声と美奈が動いたのはどちらが早かったのか、アリスには分からなかった
が、美奈が立って、生きているということは美奈の方が早かったらしい
美奈の回し蹴りがペーターの側頭部に入り、銃弾はあさっての方向に飛び、店の壁にめり込んでいた
「おー・・・ギリギリ」
「なっ・・・今の何・・・?」
「回し蹴り」
荷物を受け取りながら、こともなげに答える
「・・・ペーターは?」
「思い切りやったから脳震盪起こしてるかもね」
淡々と、自分がそれを起こしたことなど気にもしていないように
「あー・・・これだから外に出るのは嫌なんだ・・・」
「・・・っ。貴方、何なんですか」
ペーターが頭を軽く振りながら体を起こす
「一般人」
「一般人!?一般人が役付きに・・・貴方、まさか余所者ですか?」
「知らん」
元々人間不信気味だというのに、銃を突きつけられたことで美奈の中のペーターは最下層ランクに位置づけられたらしい
「ペーター・・・蹴られたことは同情するわ。だけど貴方が悪いんだから反省しなさい」
「何でですか!?僕と貴方の愛の障害を消そうとしただけなのに」
「美奈は私の友達よ。次そんなことしたら・・・」
ペーターの耳が揺れる
「・・・分かりました」
憎々しげに睨まれながらではどうにも信用が出来ない
「この国に余所者が2人、なんて珍しいですね。夢魔は一体何をしているのか」
「・・・・・・アリス、私疲れた。帰る、寝たいもうやだ引きこもりたい。この国ほんとこえーよ。もう私の残りの人生の生活圏は遊園地の中だけでいいですもうほんと疲れました」
「引きこもりはダメよ。ペーター・・・アンタのせいで美奈がまた引きこもりに戻ったらどうするつもり?」
「そんなヤツ引きこもりでも何でもさせておけばいいじゃないですか。貴女が手を煩わせる必要なんてありません」
「・・・・・・ウサギに言われるのは何かムカつくからやっぱ外出る」
舌打ちしながら美奈は言う
「貴方みたいな引き篭もりがアリスの側に居ていいとでも?」
「お前みたいな変態よりはマシだと思ってるよ。引き篭もりだけど」
「アリスが貴方みたいにそんな風になったらどう責任を取るつもりですか。楽には殺しませんよ」
「あぁうん、やりたいなら殺せば?別に死ぬ事なんて怖くないし。それよりストーカーにまとわりつかれてるアリスが大変そうだからウサギはウサギの巣に帰れ」
アリスは呆然と美奈とペーターのやり取りを見守る
銃を突きつけられたというのに、美奈の表情に変化は無い
それがペーターには理解できないのか、驚いているのか若干ペースを崩されているようだ
「そういえばウサギの肉って美味しいんだよ。昔親父の実家で食ったたなぁ・・・さっぱりしてて美味しかったっけ。ウサギ鍋。アンタも食ってやろうか?まぁさっぱりって言うか黒い出汁とか出そうだけど。後不味そう。私だったら金貰っても食いたくないわ」
「貴方さっきから何なんです!?」
「いや、ムカつくからこき下ろしてやろうかと思って。XXXXしてXXXXするぞ言わないだけマシじゃないかと。後実行してないし」
「言ってるじゃないですか!実行なんてしないでください!」
一応昼間の街中だというのに恐ろしい発言をかます美奈
「美奈・・・アンタ、女なんだから・・・」
「元ヤンだから問題なし」
グッと親指を立てて美奈は言う
「ダメだ。私こいつ嫌い」
「僕も貴方なんて嫌いですよ!いえ、アリス以外皆死ねばいいんです」
「ははっ、全員死ねばいいは同意するよ。・・・うん、皆死んじゃえばいいのにな、隕石落ちてこないかな・・・疲れた、眠い」
欠伸を噛み殺す美奈は本当に眠そうだ
「寝てないの?」
「んー・・・寝てるけど寝足りない」
帰る、と美奈は踵を返す
「待ちなさい。貴方本当にどうやってここに来たんですか?」
「『落ちて』きた」
「・・・っ!何なんですかそれは!」
だってねぇ?と美奈はアリスを見る
「えぇ、本当よ」
僕だって大変だったのに、や夢魔のヤツに・・・などというブツブツと言う呟きが聞こえる
(夢魔?)
聞き覚えの無い単語だ
ヤツ、と言っているくらいだから人間なのだろう
「それにアリス、まだ時計塔にいるんですか?あんな穢れた場所・・・」
「おい」
美奈がペーターの胸倉を掴む
「あんまお口の度が過ぎると・・・・・・マジでXXXXしてXXXXすっからな」
冷え冷えとした殺気じみたものを感じ、アリスは冷や汗をかく
確かに『この国の人間』はこの手の殺気を発することがある
だから、今は足元から寒い
まさか美奈が同種の殺気を放てるなんて、とアリスは美奈の横顔を見る
いつもと何も変わらない顔だと言うことだけが少しほっとする
「触らないでください!雑菌が付くじゃないですか!」
「あははははは、面白いこというなー。人間がどんだけ保菌してっと思ってんだ?」
ははは、と笑うが目が笑っていない
「まぁいいや。ウサギさんは大人しくウサギさんの巣に帰りなさい。じゃないと怖い人間にウサギ鍋にされて食われるぞー」
口元が歪む
「アリスー、帰ろう。疲れたし、眠いし、お腹空いたし」
「そ・・・そうね、行きましょう」
「アリス・・・やっぱり僕よりそっちを選ぶんですか!?」
またも銃を突きつけそうな雰囲気になり、アリスは鋭い声でペーターを呼ぶ
「言ったでしょう、彼女は私の友人よ」
「・・・すみません」
美奈は、すたすたと歩いて行ってしまう
もう彼女の興味は白ウサギからは逸れている
美奈が今何を考えているのかは分からないし、きっとこれからも理解できない
(私と同じ余所者・・・でも、この国の人間にも、近い)
だがどこか異質で、浮いて見える
「あの・・・また会いに来てくれますか?」
アリスの友人だと言う美奈に銃を突きつけ、あまつさえ撃ったのだ
嫌われたのでは、と言う恐怖のような感情が浮かんでいる
どうしてかは分からないが、甘くなる
「・・・友人としてなら、また城に行かせてもらうわ」

そう言って美奈を追いかける



余所者彼女、白ウサギに絡まれる
(私やっぱりアイツ嫌い)(撃たれたものね・・・)




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