「・・・で?どうなの?」
いつもの時計塔広場のカフェ。
アリスと・・・いつものように仏頂面をした美奈は向かい合って座っていた。
「何が」
ゴーランドと付き合い始めたという報告を受けてからどのくら時間帯が変わったか。
少し見ただけで美奈に変化はないように見えるが、少しだけ空気が変わったような気がする。
「ゴーランドよ。一緒に舞踏会も行ってたじゃない」
「無理矢理引っ張り出されただけなんだけど・・・。城とか行きたくなかったのに・・・」
家主と居候の猫の性格を考えれば、引っ張り出されたというのはきっと読んで字の如くなのだろう。
同じように赤い騎士のせいで城へ行かざるを得なかったアリスは苦笑を浮かべる。

「城とかマジないわ・・・ありえない・・・。私と城っていう組み合わせのミスマッチさがやばい。あー・・・でも」

美奈はふう、と息を吐く。

「元々ここはそういう場所か」
「・・・?どういうこと?」

美奈の黒い瞳がアリスを捕らえる。

「アンタが【アリス】だから」

ナイトメアと同じで何を考えているのか分からない顔。
美奈の言っている意味が分からないとアリスはぽかんとした表情を浮かべる。
「帽子屋に三月ウサギ、双子にチェシャ猫。それに舞踏会でハートの女王と白ウサギも見たしなぁ」
うんうん、と美奈は1人頷いている。
「どういうことか説明してよ」
「何事にも元があるってこと」
コーヒーを飲みながら美奈はそれだけを返す。

「まぁいいや・・・。帽子屋はマフィアだし、城は怖い姉ちゃんがトップだし。遊園地が一番平和だ。裏側がマフィアでも何でもいいや・・・」
私に迷惑かからないし、と付け加えることも忘れない。
「だから、貴女は何でそう退廃的なの。怠惰的なの」
アリスがそう言うとそれが私だからときっぱりした返事が戻ってくる。
「私は昔からこうなんだよ。頭可笑しいの」
「自分で言うのもどうかと思うけど・・・否定できないわね」
少しはしてよ、と美奈は口を尖らせる。
「だからこそ思うんだよ。・・・私は此処に居てもいいのかって」
「・・・帰るつもりなの?」

美奈がこの世界に残ることを選択したように、アリスもまた大切なものの為にこの世界に残った。
ゴーランドがどれだけ美奈を想っているのかを外側から見てきたアリスとしては、ゴーランドの為にも美奈自身の為にもここに居て欲しいと思っている。
「帰れないよ。道がないんだから。それに・・・帰るっていうのは死ぬことだし」
痛いのやだよ、と至極大まじめに言う。
「元を知ってるからこそ悩むんだよ。この世界は元々―――――――の為の世界なんだから」
「え・・・?」

今、何の為の世界だと言ったのか。
声が遠くなって聞こえない。

「さて、遅くなると怒られるし帰るか」

聞き返そうと思ったが立ち上がられては仕方ない。
「結構ゴーランドって過保護よね」
結構というレベルではないが、一応そう言っておく。
「私いい年した大人なんだけどな・・・」
怒らせたくないから帰るけど、と付け足す。

「そうね。面倒だし」
「そ、めんどい」

美奈とアリスは顔を見合わせると同時に吹き出す。

「また今度遊園地に行くわ」
「ん。たまには私も自分から外に出るか・・・気が向いたらだけど」
「いいから出なさい」
はいはい、と軽く流して美奈はコートを羽織る。
「じゃあね」
「ええ」

もう、どのくらい時間が経ったのか。
遊園地から時計塔広場への道は覚えた。
だからアリスと一緒でなくても帰れる。

不思議の国、ハートの国。
【アリス】の為の国。

(私は・・・異端だ)

アリスと同じ余所者というくくりでも、彼女とは違う異端の余所者、
本当なら存在してはいけないのだと、美奈は薄々何処かで気付いていた。
この不思議の国にアリス=リデルという少女は馴染んでいた。
けれど、美奈は馴染めない。
・・・馴染みきれない。

「今なら」

馴染めるだろうか。

「馴染みたい」

今なら素直にそう思える。
元の世界を捨てたことに罪悪感は感じない。
最低女、心の中で自分を罵る。
罪悪感を感じないことに、罪悪感を感じる。

「ただいま」

それでも、笑いかけて貰うとその罪悪感すら溶けて消えていく。
最初から帰る選択なんて出来ない。

「おかえり、今日もアリスとか?」
「アリス以外出かける相手いないでしょうが」
寝てるところひっぱりだされたの、と顔をしかめるが何処か楽しげに見える。
その時丁度時間帯が夜に変わる。

「よし、久しぶりに2人で遊園地回るか」
「・・・別にいいけど」

そっけない口調も今は少し柔らかい。
自分から手をつないで、ゴーランドの隣に立つ。
「私さ」
「どうした?」
「馴染みたいって思った」

顔が見えるようになるにつれて、現実が顔無しになっていく。
「どうせ元の世界の事なんて忘れてるんだから」
だったらいっそ全部忘れてしまった方がいいんじゃないかと、そんなことすら思ってしまう。
(この方が私らしい)

「だからさ」

ニッと口元で笑う。

「忘れさせてよ、元の世界のこと。最初からこの世界の人だったって思わせるくらいに」

可愛さの欠片も無い挑発的な言葉にゴーランドは笑う。
「ああ、あんたはずっとここに居ればいい」
そう言って美奈の手を握る力を強める。

「美奈」
「何」

ぐっと肩を掴まれて、唇が重なる。
それを理解した瞬間美奈の顔が真っ赤に染まる。

「な・・・な・・・!?」

突然の事に対応出来ず、美奈は顔を赤くしたまま口をパクパクさせる。
「いいだろー、少しくらい見せつけてやったって!」
「お・・・おおお、おまっ・・・ばっかじゃないの!?」
真っ赤になったままの美奈をゴーランドが引きずっていく。
周囲の好奇の目が痛い。
「美奈」
「煩い黙れメリー」
「だからメリーは止めろっての!・・・じゃなくて」
ゴーランドはポケットから何かを取り出すと美奈に見せる。
「・・・これって」
あの日、色の洪水の中で叩き割ったはずの小瓶。
「あんたの、ハートだ」

ハート、心臓・・・心。

ゴーランドからそれを受け取る。
あの時感じた嫌な気分は受けない。

「私の心は、きちんと此処にある」

だから帰る為の小瓶は必要がない。
「メリー・・・じゃなくて、ゴーランド」
かかとをあげて、美奈はゴーランドの頬に唇を寄せる。
「口にしてくれりゃいいのに」
「煩い」
ぷいっとそっぽを向く。

「幸せにしてやるよ」
「期待しないでおく」

喜んでいるのが分かるから、そんな言葉すら愛おしい。

「ずっと此処に居ろよ?」
「幸せにしてくれるんでしょ?だったら此処に居ないと」

もう二度と戻れない。
もう二度と思い出せない。

彼女はゲームをクリアした。
だから、次のゲームを始めなければ。

彼女はゲームをクリアした。
だから、狂ったルールを支配した。

さあ、魔法の言葉を囁いて?
狂ったルールから抜けだそう。






不機嫌彼女と狂ったルール
(すきよ。だいすき。ずっとしあわせにしてくれるんでしょ?)







「あんたはゲームに勝利した」
「ゲーム・・・?」

この国ではゲームをしなければならない。

「ああ、そうだ。・・・選んでくれてありがとう」

ゴーランドの優しい笑顔に、何となく理解する。


(狂ったルールに、狂ったゲーム。狂った私にお似合いだ)




あとがき
不機嫌彼女、第一章(?)取りあえず、完
アリスが居るシリーズも書きたくてこうなったわけですが、ヒロイン可愛くない・・・
ツンデレだから仕方ないよね、分かりにくいツンデレ
最初はここで終わる予定だったんですが、思いのほか自分で書いてて楽しかったのでまだ続きます
第二章(?)は役持ちとの交流メインで
ペーターを蹴り飛ばしてみたりとか、「親交を深める」と言う名目で飲んだくれたりとか、いい笑顔で嘘吐いたりとか、ゴーランドが思いっきり嫉妬したりとかそんな感じです
このヒロイン、基本遊園地意外と険悪(とまでは行かなくても仲良くは無い)です←
余所者なのに好かれない(と言うかヒロインが好こうとしてないだけか?)余所者
引きこもりの不機嫌な余所者と愉快な役持ちと可愛い余所者のお話は管理人が飽きるまで続きます←



と言うのが約二年前・・・?くらいのあとがきでした。
文章が古すぎて読み返すと心の傷を抉るような感覚がきますね。多少なりとも成長している証しなんでしょうか。
新装版をプレイして非滞在地ルートに萌え滾ったので第二章が終わったらIfルートとして帽子屋滞在でのお話が書けたらいいなぁなんて思ってます。


(加筆修正:2013/11/18)



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