声が聞こえたような気がして私は目を覚ました。
寝起きのぼやけた視界に天井が映る。
そのままダルさの残る体を横に向けると、克之さんの寝顔が視界に入った。
(あー、そうだ。そのまま寝ちゃったんだっけか)
昨晩の情事の際の克之さんを思い出して、ゾクリと体に震えが走る。
克之さんはSだけど、私はノーマルだったはずなんだけどなぁ。

私を見下ろしていた冷たい目と、嘲りの含まれた声。
どうしよう、私、この人に凄く愛されてる。

まるで熱に浸食されていくように、目の前で眠るこの人が『欲しく』なる。
人を殺したいと思ったのはこれが初めてだ。

「花梨さん」

私がもぞもぞと動いていたせいか克之さんが目を覚ます。
その目が冷たく私の目を射貫く。
「浮気とはいい度胸ですね」
あっという間に組み敷かれて、克之さんは私の首に手を当てる。
ぐっと力が入ると呼吸が上手く出来なくなってぐらりと目眩が視界をゆがませる。
「ただの友達です」
偶然出会って、少し話をしただけ。
示し合わせた訳じゃない、他意があったわけじゃないただの偶然。
楽しそうに話していましたね、と笑った克之さんの笑みが何処か怖くて、初夏の暑さが遠くへ行ってしまったような感覚に陥った。
物理的に繋がれてなどいないのに、精神の束縛が私の体をがんじがらめにする。
「嫉妬ですか?」
にっこりと、出来るだけ可愛く見えるように笑いながら。
ほとんど無理矢理と言っていいように抱かれたせいかどうにも体が重いし、動きたくないと思う程度には怠い。




それでも




この人が嫉妬してくれるくらいには愛されている。
7/7の異常な愛情を受けた思考回路はぐちゃぐちゃに侵されていて。
もう正常な判断なんて出来やしない。
だって克之さんの『正常な愛』は1/7だったんだから。
私に向けられる7/7は『異常な愛』でしかない。
でも、それを自ら受け入れたのは私。
「嫉妬・・・?」
克之さんの顔に不快感に似た何かが広がる。

あぁ、いいなぁ、その顔。

この人に嫉妬してもらえるんだったら浮気してやろうかなぁ。
「花梨さんは私の恋人でしょう?」
「えぇ、そうですよ。克之さんこそ私の恋人なんですよね?」
当たり前でしょうと人のいい笑顔で克之さんが笑う。
薄皮一枚隔てた向こう側に垣間見える狂気を心地よいと思ってしまうくらいには、異常が正常にすり替わってきて。
常識が塗り変わってしまった脳内で何処が間違っているのかを考えても答えが見つからない。
「愛していますよ、花梨さん」
だから私だけのもので居てください。
低い、異常さの籠もった囁きが聴覚を犯す。
だから、私も克之さんの聴覚を犯し返す。



7/7の異常な愛情
(ぜんぶぜんぶ、ほしいなぁ)




―――
ヤンデレな話
異常も、身を浸していれば正常へとなり得るのです



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