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「やっぱおしとやかを装うのは無理かぁ・・・」
盛大なため息を共に呟かれた言葉に天王寺は隣でカウンターに肘をつく花梨を見る。
「何や行き成り」
「ヘコんでるんです。大ヘコみです」
花梨は涙目で体を起こすとグラスを拭いていた阿賀佐にギムレット!と叫ぶように言う。
「花梨ちゃんさっきから飲み過ぎじゃない?大丈夫?」
「いいんですよ!どうせ明日休みだから飲んで飲んで飲みまくってやります!」
花梨が荒れている原因を悟った天王寺はため息を吐くと
「・・・またか」
と言う。
その言葉に花梨はびくりと体を震わせ、ぼろぼろと泣き始める。
「どうせ私なんか動物園の珍獣使いですよ、可愛くないしスタイルも良くないし体中生傷だらけだし大食いだし女らしさなんて1つもないですよ」
花梨にとっては仲の良い男友達のような感覚である天王寺にだからこそ零したであろう言葉。
前にも一度、別部署の男を好きになったものの似たような相手からは同性の友達のようなものでしか見られなかったらしい。
告白はしたものの先ほど花梨が呟いたような事をオブラートに包んで言われたらしい。
その時もこうやって愚痴を言われた。
(ただ、酒入るとこいつ更に要領悪なるからな)
花梨に聞こえないようにため息を吐く。
彼女に惚れている身としては聞くのは辛い。だが、花梨は自分を何でも話せる友人だと思ってくれている。
そう考えてしまうとその信頼を崩すことにも勇気が要る。
「天王寺さん」
「何や?」
「私、刑事やってていいですよね?」
ぐすぐすと鼻をすすりながら花梨がそう尋ねる。
「当たり前やろ。そんなこと言うとったら桐沢さんに怒られるで」
「よかった!もういいです、私は刑事人生に命をかけるんです!私の人生に恋愛なんて必要ありません!」
そう言って出されたカクテルを一気に飲み干す。
「ちょ、花梨!?」
「うー・・・」
流石に酔いが回ったのかカウンターに突っ伏す。
「あら、花梨ちゃん潰れちゃったか」
「はぁ・・・飲み過ぎやっちゅーねん」
仕方なしに花梨の分も支払い、背負うと阿賀佐に礼を言ってからモンステを後にする。
「あんな奴らよりええ男がここにおるやろが」
ぼそりと呟くが当の本人は夢の世界。
そう言いつつ、口元が緩みそうになるのが止まらない。
花梨が他の男のものにならなくてよかった。
そう考えてしまう。
「なぁ、花梨。俺のものになれや」
失恋確定に大喜び。
(性格が悪くたって構わん。俺が欲しいんは花梨だけや)
【配布元:Abandon】