「うー」

1つうなり声を上げて机に突っ伏す。
かちこちという時計の秒針の音が、しんと静まりかえった深夜の課内に響く。

「つっかれた・・・」

窓から眼下を見下ろせばクリスマス色の光が洪水のように溢れているけれど、それは今の私とはまったく別次元の世界の話。
クリスマスだろうとなんだろうと仕事は仕事。
むしろ年末にかけて犯罪が増える。

外回りを終えて帰ってくると、二課のメンバーはもう帰ったのかまだ仕事中なのか。
普段賑やかな分静けさが、寒い。

「さむ・・・」

誰に言うでもなく呟いて、疲労で重い体を起こす。
折角のクリスマスイブだって、仕事だ。
仕方ないとは言え、寂しいとも思う。

「でもまぁ、何も無くてよかった」

起き上がって体を伸ばす。
一日中外を歩き回っていてくたくただ。
家に帰って、お風呂にゆっくり浸かって、お腹いっぱいご飯を食べよう。
せめてご飯くらいクリスマスっぽいものにしよう。
鞄を手にとって立ち上がって振り返る・・・

「ぎゃっ!?」

と同時に何かに顔からぶつかる。
酷い悲鳴が漏れたが気にしないことにしよう。

「・・・木村さん!?」

見覚えのあるスーツに顔を上げれば、いつもの眼鏡をかけた涼平が口元に笑みを浮かべて立っていた。

「お疲れ様です」
「・・・木村さんもお疲れ様です」

職場だから、お互い敬語で。
でも、その言葉の端に労る色を見つけて、頬が緩みそうになる。

「・・・あれ、木村さんももう帰りですか?」

いつもの鑑識課の制服じゃない。・・・と、言うことはもう帰りだということになる。

「はい、花梨を迎えに来ました」

思わず、え?と声が漏れる。
アレか、どっきりカメラ。・・・いやいやいや。

「・・・一緒に帰れる?」
「はい。桐沢さんにも花梨がもう上がることは確認してますからね」

何をどう言って確認したんだろう・・・。
涼平のことだからまぁ・・・バレるような言い方はしないだろうけど・・・。

「じゃ、じゃあ行きましょうか」

歩き出した涼平の後ろをついて歩きながら、にやけそうな顔をおさえる。
さっきまで感じていた疲れはどこに飛んでいったのか、足取りも軽い。
恋をしている、って、単純だ。

「うわ、寒い寒いと思ったら雪降ってますよ」

空から舞い降り始めた白い色。それと同じ白い息は逆に空へと上っていく。
警視庁を出たからか、いつの間にか涼平は眼鏡を外している。

「初雪ですね」
「ホワイトクリスマス!なんか縁起良さそう!」

まぁ、ちらついている程度だから積もったりはしないだろうけど、何だか嬉しい。

「・・・もうちょっと一緒に居たいなぁ」

隣に居る涼平に聞こえないように、小さな声で。
明日も仕事だし、仕方ない。
・・・そう、仕方ない。

ああ、でも。

思い切って涼平の腕に抱き付く。

「涼平」
「どうしました?」

涼平は少し驚いた顔をしたけれど、直ぐにいつもの笑顔になる。

「今から私、ご飯だけでもクリスマスっぽいものにしようと思ってます。だから、一緒にご飯食べませんか」

もう少しだけ涼平と一緒に居たいから、その、言い訳。

「ええ、是非」

クスッと笑って、涼平は私の手を握ってくれる。
きっと私が何考えてたのかなんて涼平にはお見通しなんだろう。
赤くなった顔を隠すように、私は少しだけ俯いて白が降り注ぐ道を歩いた。




しろいろきせき
(まぁそれはきっと私たちが自力で起こした奇跡なんだけどね!)



―――
メリークリスマス!
涼平がイケメン過ぎてつらい




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