ため息が漏れそうになるのを必死に飲み込んで、目の前の資料をパソコンに打ち込んでいく。
ここ最近多発していた強盗事件。
その捜査が二課に回ってきて、私と天王寺さんでコンビを組んで必死になって捜査して。
容疑者を逮捕した。出来た。でも

(迷惑かけてしまった・・・)

私が油断しなければ、一般人が人質に取られることはなかった。
結果的に怪我人が出なかったとは言え、人質にされた人の恐怖は計り知れない。
天王寺さんは私は気なんか抜いてなかったと言ってくれたし、私に非はないと言ってくれたけれど。
もっとしっかり出来たはずだ。最後までしっかりしてなきゃいけなかった。
二課には誰も居ないから私がキーボードを打つ音だけが静かな部屋に妙に響く。
エンターキーを押すとタンッと、今の私の気分からは正反対な軽い音が立った。それに更にため息が漏れそうになる。
・・・ため息を吐いてる暇なんてない。
「次はこっちやっちゃお」
独り言を呟いて、立ち上がる。
何かをしていないと気分が滅入る。別に急ぎじゃない書類だけれどまとめてしまおう。
ファイルを整理していると、ふいにそのファイルを取り上げられる。
「・・・桐沢さん」
いつの間にか二課に戻ってきていた桐沢さんがファイルをまじまじと見つめる。
「これ、まだ余裕あるだろ?」
「そうですけど・・・今時間ありますし、やっちゃおうかと思って」
いつ事件が入ってギリギリになるか分からないでしょう?と言うと、桐沢さんは私が持って行こうと思ったファイルを2つ奪い取る。
「あのー」
「花梨」
名前で呼ばれて、ドキリとする。
「ほら、これ食え」
そう言って手渡された紙袋の中には可愛い砂糖菓子が入っている。
「え、どうしたんですか。いきなり」
「ん?気分だ、気分」
いつものように桐沢さんが笑う。
(もしかして、気を遣わせちゃったかな)
バラの花を象ったそれを、指先で弄ぶ。
「あの、私・・・」
口を開きかけるが、伸びてきた桐沢さんの手が私の頭を軽く叩くようにして撫でて・・・言葉が喉の奥に引っ込んでいってしまう。
「早くしないと溶けちまうぞ」
「あ、食べます!食べますって!」
口の中に放り込むと、それと同時に広がる甘さ。
「・・・美味しい」
その甘さと美味しさに思わず口元に笑みが浮かぶ。
「気にすんな・・・って言いたいけど、お前は気にするヤツだからな」
ポツリと呟くように桐沢さんが言う。
顔を上げると、桐沢さんは困ったような笑みを浮かべていて。
きっと、言葉に困ってるんだろうな。
気を遣わせてしまった事、迷惑をかけてしまった事がぐるぐると心の中で渦巻く。
けれど沈んでいく思考を口の中に広がる砂糖が引き留める。
「桐沢さん」
有り難うございます、と口の中で呟き振り返る。
「次はあんな事がないようにもっと精進したいと思います」
余計なことを言ったら何だか泣いてしまいそうで。わざとふざけた声を出す。
「はは、そりゃ心強いな」
桐沢さんも、きっと私が泣きそうなことに気付いてる。
それに気付かないふりをして、桐沢さんもおどけた声を出してくれている。
(恵まれてるなー)
恋人にも、上司にも。
紙袋から砂糖菓子を取り出してまた口の中に放り込んだ。




優しさは砂糖味。
(あぁ、なんてあまい)




―――
桐沢さんみたいな上司、っていうか恋人素敵

Title by:Abandon




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